fainal1/2-13
「……俺は十二年前、この気持ちを持ち続けられずに決勝で敗れた。
これが、今のお前逹に教えてやれる最期の指導だ」
一哉の顔から険しさが抜けた。穏やかな眼が、選手逹を見つめていた。
「お前逹の戦いっぷり、スタンドから観てるからな」
そう選手逹に告げると、永井と葛城の傍に立った。
「ありがとうございました。選手逹も、気合いが入ったと思います」
永井が礼を言った。
「わたしの方こそ、こんな機会を与えていただいて、ありがとうございました」
頭を下げた一哉は、二人に背を向けた。
「勝つと信じてますから」
激励の言葉を残して、球場の入場口へと去って行く一哉。その顔には、何かをふっ切ったように、さばさばとした表情を湛えていた。
永井と葛城、それに選手逹は一哉が見えなくなるまで、見送った。
「青葉中学校さん──」
するとそこへ、入れ替わるように案内係が入場を告げに現れた。
「全員、準備しろ!」
午前十一時三十分。青葉中は三塁側から球場へと入場した。
陽に灼けたグランドから、陽炎が立ち昇る。すでに相当の暑さのようだ。
球場入りした青葉中は三塁側の、沖浜中は一塁側のファウルゾーンを使い、二手に分かれて三十分程度の準備に掛かった。
事前に学校のグランドで、ある程度のアップはこなしてきた。過度の準備は必要ない。佳代を含む三人以外は、軽く走った後、輪になってストレッチを始めた。
「なあ、あれなんだったんだ?」
ストレッチをやりながら、直也が周りに向かって疑問を挙げた。
「初めてだな、コーチが昔話をするなんて」
達也がそれに答える。
「それに、あの眼……なんだか怖かったな」
淳の言葉に乾や足立ら数人が同意するが、稲森省吾は違う意見を持っていた。
「だが、それくらいの気概を持たないと、今日は勝てないってことだろう」
省吾の中で闘志となって表れるほど、一哉の言葉は強烈な印象となって残っていた。
「……絶対に勝つんだ。此処は俺逹のゴールじゃないはずだ」
省吾はそう言って外野の方を見た。一人、走り込みに従事する佳代がいた。
試合の出来る状態にするのに、余念がない。
「あいつが帰ってきた途端に敗けたんじゃ、格好がつかねえしな」
「それは、お前の左肩に掛かってるからな」
達也が茶化す。途端に省吾の顔が苦笑いになった。