fainal1/2-12
「病院の先生に許可をもらいました!それに、藤野コーチにテーピングも」
「藤野さんに?」
佳代の言わんとするところが永井には解らない。すると、その視界に遅れてやって来た一哉が入った。
永井と葛城の顔に、緊張が疾る。
「永井監督」
永井は無言で一哉を見た。
「準備に手間取ってしまい、アップをさせる暇がありませんでした。後は宜しくお願いします」
一哉は必要事項だけを伝えて背を向けると、その場から離れようとした。
「ちょっと待って下さい!」
背中に葛城の声が飛んだ。
「せっかくですから。選手逹にひと言、声を掛けてあげて下さいませんか」
くぐもった声が、一哉の胸を咬む。
「わたしからもお願いします。子供逹に、檄を飛ばして下さい」
永井も頭を下げた。今日が終われば、しばらく子供逹に会う機会はない──餞の言葉をと考えた。
目の前には、選手逹が整列して一哉の言葉を待っていた。
一哉の中で、またあの日が甦る。未だに根底を揺さぶる、あの出来事が。
「決勝での戦い方は──」
何の前ぶれもなく話は始まった。
選手逹が耳にした内容は、今までの一哉と趣が違うものだった。
「──普通なら悔いのない試合をしようとか、自分達の野球をやろう等と言うだろう。
だが、そんなものは嘘っぱちだ。相手以上に勝ちたい、どんな犠牲を払ってでも勝ってやるんだと胸に刻め」
何時もの心理的な内容なのだが、その漂う気迫というか悲壮感に選手逹は戸惑いをもった。が、一哉は構わずに話し続ける。
「それも漠然とした思いだけじゃない。試合の中で、自分はどんなプレイでチームに貢献するのか。
そのひとつ々を細部にまでイメージして挑むんだッ」
更に「そして、ここからが最も重要だ」と前振りしたところで言葉を一旦切り、目に神経を集中させて選手一人々を視界に捉えた。
自分の言葉が、皆の頭の中に浸透する時間を待つように。
「相手より勝ちに貪欲でいられる者だけが、勝者となる。
だが、僅かでも諦めたら、勝ちは逃げて行くッ。自分達は絶対に勝者になるんだと強く信じ込め!」
声が止んだ。一哉の迫力に気圧され、選手逹は誰も言葉を発そうとしない。