fainal1/2-11
(何故、わたしはあんな事を言ったの……)
直也を置き去りにして自室に戻った有理は、ベッドに伏せるように倒れ込むと自己嫌悪に陥った。
──直也の気持ちは大分前から気付いてた。ただ、ずっと待っていたが、それらしい行動を起こす気配さえなかった。
そればかりか、話掛けて来たことなど一度もない。そのクセ、佳代が相手だと気易く話し掛けるし、口喧嘩なんかしょっちゅうだ。
何より、佳代の事になると見境がない。いくら野球部同士とはいえ、その関係を見ると、果たして本当に好意を持っているのかさえ疑ってしまう。
有理の中に、直也に対する鬱屈とした思いが次第に大きくなった。
そして、受けた告白である。最初は戸惑いの中、どう返答して良いのかと困惑していた。
だが、これまで直也に受けた扱いや試合を口実としたことが段々腹が立ち、ああいう返答になってしまった。
(自分は、何て自己中心的な人間なんだろう……)
疑い易く、気が強い上、心にもない悪言を平気で口にしてしまう。そんな自分が情けなかった。
何とか、拗らせてしまった関係を修復したいと思った。が、その手立てを考えてる内に朝を迎えてしまったわけだ。
「……ねえ、尚ちゃん」
有理は、顔を車窓から尚美に向けた。
「なあに?」
「ちょっと、相談にのってくれる?」
尚美は少し驚いた。そう語った有理の顔は、真剣そのものだったからだ。
「球場が見えて来ました」
助手席から佳代が指差す。コンソールの時計は、十一時十五分を指していた──球場入りの時刻まで幾らもない。
(アップは、グランドでやるしかないな)
一哉は、球場から離れた空いている場所に車を駐車した。
「此処から走るぞ!」
「はいッ!」
この先は、球場まで緩い登り坂が百メートルほど続いている。二人は、球場に向かって走り出した。
「コーチ、あそこ!」
坂を登り切ると、球場外周路の脇に“青葉中学校”とプリントされたテントが見えて来た。中には、入場を待つ仲間達の姿があった。
それは、向こうからも見えていた。
「おい!佳代が来たぞッ」
誰かの声がした。
次の瞬間、日射しを避けていた選手逹が我先にとテントを飛び出し、佳代に駆け寄った。
「ち、ちょっと待って!」
思い々の声が掛かる。そんな仲間逹の間をすり抜けて、佳代は永井と葛城の前に立った。
「監督、葛城コーチ!遅くなりましたッ」
「どうだ?行けるか」
問いかけに対して、佳代は力強く頷いた。