fainal1/2-10
佳代が一哉の車で球場に向かっているちょうどその頃、保田尚美は待ち合わせの場所へと急いでいた。
Tシャツにハーフパンツ。帽子と首に巻いたタオルという出で立ちは、すっかり観戦馴れしたサポーターだ。
「おはよう」
待っていたのは有理だった。
彼女も尚美と同様の格好だ。地区大会から試合を見続けた為か、露出した肌の部分はすっかり日に焼けている。
「ごめん!出掛けに色々あってさ」
「大丈夫。わたしも今、来たばかりだから」
「じゃあ、急ごうか!」
二人は球場に向かうべく、最寄りのバス停へと向かった。
「今日で最後だね……」
「うん……」
それ以上、互いは口を閉ざしたままで何も語らない。
約ひと月に渡った大会。
それも、今日で終わりかと思うと、つい、気持ちが感傷的になった。
まだまだ応援していたいが、全国大会々場の宜野湾市はさすがに遠過ぎる。
「あッ!ちょうど来たよ」
球場へ向かうバスが見えた。二人は気持ちを仕舞い込み、バスへと乗り込んだ。
バスは休日とあってか、乗合客は疎らだった。球場は終点近くという事もあり、二人は後ろの席に座った。
「あれ……?」
隣に座る有理に、尚美は違和感を覚えた。
「目……赤いね。どうしたの?」
「なッ!……何が」
問いかけられた途端、有理は隠す様に顔を背ける。今まで見せたこともない反応は、益々、怪訝さを募らせていく。
「瞼も少し腫れてるみたいだし……何かあったの?」
尚美の顔は、自然と心配気になった。
「内緒……」
しかし、有理は何も言わずに笑みで答えるだけ。これでは、更に突っ込む訳にはいかない。
尚美は諦める事にした。
「じゃあ、聞かないわ」
「ごめん。気を遣わせて」
「そのうち、教えてね」
「分かってる」
会話の途絶えたバスの中で、有理は車窓を流れる景色に目をやりながら、自分の目許がこうなった原因に思いを馳せた。
──お断りよ。
直也の告白に答えた時、一番驚いていたのは他ならぬ有理自身だった。
決勝前夜という大事な日。断るにしても明日の彼の立場を考えれば、動揺を与えない返事は出来たはずなのに、傷付ける言葉ばかりが口を吐いた。