決断の行く先-1
『沢田さんの携帯で宜しいですか?』
昼休みに携帯が鳴った。知らない電話番号だった。はい、と訝しげに答えた。
『私、中田理沙の伯母にあたる、中田京子と申します』
「あ、あの、ご愁傷様です」
マグカップを持つ手を離し、口元にあてながら廊下に出た。
『明日、理沙の葬儀があるんですが、私、夫を亡くしてましてね、彼女も身寄りがないもんで、私が喪主をするんです。で、理沙の携帯に名前があった人に連絡してる所なんです』
「あ、そうなんですか。あの、お通夜は無理かもしれないんですが、ご葬儀には参列させてください」
そう言って、誰もいない空間に一礼した。
『あの、こんな事訊いては失礼かもしれないけれど、遺書にあった沢田さんって、あなたの事かしら?』
目を瞑った。また眩暈に襲われそうで、冷や汗が湧き出た。
「そうだと思います。すみません」
『いえいえ、謝らないで。彼女は素直な良い子だから、あなたの幸せを本当に願ってたんだと思うの。だから罪悪感なんて感じないでね。明日、直接お会いできれば嬉しいわ』
自分の母親の様な、日向の猫の様な、穏やかな声に涙が溢れてしまった。嗚咽を押さえるのに一苦労だった。
「はい、よろしくお願いします」
そう言って、電話を切った。涙が引くまで廊下に突っ立っていたら、リンが通りかかった。
彼の眼は、腫れぼったかった。
「おい、どうした?」
「葬儀の連絡を貰って」
「あぁ、お前はどうする?」
「明日行く」
それだけ言って、手のひらで涙を拭いて、居室に戻った。
明日は有休をとる事にした。
葬儀場につくと、高校時代に見た事のある人がちらほらいた。
その中に歩がいた。
「美奈!」
「歩!」
久しぶり、と握手をした。
「どうしたの?美奈って理沙と交流あったっけ?」
不思議そうな顔をする歩に説明した。
「こっちのスーパーで偶然会ってね、仲良くなって」
そう、この偶然さえなければ、こんな事にならなかったかも知れないのだ。
「そうなんだ、凄い偶然もあるもんだね。それにしても――残念だね。じゃ、また後で」
彼女は過去のクラスメイトの一団の中に戻って行った。