私はメアリー-1
どんなに、世の中を見渡せても、私には、そこを歩く足がありません。
どんなに、愛らしいものを見つけても、私には、それを抱く腕がありません。
どんなに、美しいものを眺めても、私には、それを理解する心がありません。
私は、空虚な自分をじっと見つめました。
無論、何もありません。
だから私は、外を見ました。
自分に無い全てがありました。
でも、どれが私にとって必要なものなのか、解りません。
私は、ずっと迷っていました。
だから、私は一番傍にあったものを、自分にしてみました。
それは、歪なブリキの怪物の玩具でした。
でも、それは私。
私の足は歪んでいて、腕は無くて、心もまだ、空っぽでした。
でも、足がある。歩いてゆけます。
ある時、私は一人の人間に出会いました。
私は頼みました。
「あなたの腕を下さい」
人間は、私を『化け物』と呼び、逃げて行ってしまいました。
私は化け物。化け物…?
私は化け物と名乗る事にしました。
名付けてくれた人間に感謝しました。
暫くして、また、人間に出会いました。
私は頼みました。
「私は化け物です。あなたの腕を下さい」
その人間は、こう答えました。
「おのれ、恐ろしい化け物め。ワシが退治してくれる」
退治される。それは、私が壊される事。
それは、少し嫌でした。
だから、聞いてみました。
「どうして、私を壊すのですか?」
すると、答えは、すぐ返って来ました。
「お前が化け物だからだ」
化け物は壊されるモノ。私は化け物。私は壊されるモノ。
私は壊されないといけないモノ。
「それでは、仕方ないので、私を壊してください」
私がそう言うと、人間は不思議そうな顔をして私を見つめてきました。
「変な事を言う奴だ。お前は死にたいのか?」
死ぬ。壊れる。私は壊れないといけない。私は死なないといけない。
「はい。死にたいです」
私はそういうモノだったのです。自分が解った気がして、嬉しく思いました。
「ふん、殺す気も失せたわ。勝手に死ぬがいい」
人間は、私を殺してはくれませんでした。何がいけなかったのでしょうか。