私はメアリー-2
私は、死ぬために歩き続けました。
自分を壊すためには腕が必要です。でも、私には腕が無い。
そうして困っていると、一人の少女が私に近づいてきました。
「可愛らしいブリキの玩具さん。あなたは何を困っているの?」
私は、正直に話しました。
「私は化け物なのに、死ねないのです。誰も、私を殺してはくれないのです」
それを聞いた少女は、悲しげな表情を見せました。
「どうして、そんな風に考えてしまったの?」
私の考えは、どこか、間違っていたのでしょうか?
「しかし、私は死なないといけないのです。お嬢さん、私を殺してくれませんか?」
ブリキの歪んだ足が軋みを上げるほど、私は身体を伸ばして少女に頼み込みました。
「そんな考え方は悲しいわ。私がもっと、素敵な考え方を教えてあげる」
その提案には、不思議な魅力がありました。
「きっと、そんな身体だからそんな風に考えてしまうんだわ。私の大好きなお人形に入って御覧なさいな」
私は、言われた通りに、少女の人形を私にしてみました。
今度の私には、足があって、腕もあります。でも、やはり心はありませんでした。
「あなたの名前は何というの?」
「化け物です」
「それでは駄目よ。あなたはお人形さんなのだから、可愛らしい名前にしないと。そうね、メアリーが良いわ」
「メアリー」
「そうよ。あなたはメアリー」
私の新しい名前は、メアリー。
メアリーとは何でしょうか?
「メアリーは、何をするのですか?」
「あなたの好きな事をすればいいのよ」
好きな事。それは、望み? 私の望みは、心を得る事。
「メアリーは、心が欲しいです」
「素敵な事だわ。でも、それは、自分で見つけないといけないの」
自分で見つける。自分で探す。私には足も腕もある。
「では、メアリーは、心を探しに行きます」
「そう。あなたが行ってしまうのは少し寂しいけれど、あなたが望んだ事なら止めないわ」
少女は、私の代わりに、私だったブリキの玩具を抱き上げると、手を振って送り出してくれました。
「ありがとう、さようなら」
私は少女に別れを告げて、心を探すために歩み始めました。
心は、どこにあるのでしょうか。
いつか、見つけられるのでしょうか。
見つけたら、どうすればよいのでしょうか。
私は――。
私は、可愛らしい人形の身体を揺すりながら、弾むようにして歩き続けました。
歩きながら、心はもうすぐ、そこにあるような気がしていました。