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永久の香
【大人 恋愛小説】

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名刺の名前-1


 7月に売り込みに行ったソフトウェア10件中、9件の成約が決まった。
 新しくバディになったサイみたいなヤツと一緒に、製品を渡しに周った。
「俺、裏原宿とかよく行くんだよね」
「はぁ」
 一応コイツは先輩なので、こちらは聴き役に徹する。
「限定とかコラボに目が無くてさぁ、この前も限定の革ジャン?朝から並んで買っちゃって」
「はぁ、そいで?」
「10万近くしたんだけど、やっぱり高い物はきちんとしてるよなー。沢田さんは好きなブランドとか、あるの?」
「いや、別に」
 これ以上話を広げたくないという態度をとっても、空気を読まずにファッション持論を展開するサイに辟易した。
 あぁ、いつまでこの人と組むんだろう。
 そもそも、顔が良い人なら何を着たって似合うんだよ。
 中田さんや、リンだってそうだ。別にブランドがどうこうと気にしてる様子はない。
 もし気に入ったブランドがあったとしても、それをひけらかしたりしない。
 ましてや値段までいう事は絶対にないだろう。
 それを全てこのサイに言ってやりたかったが、何か面倒臭くてやめた。

「あれ、高橋君は?」
 ここ数日で回った営業先9件全てで言われた。
「異動したんです。お世話になりましたと申してました」
 何この面倒臭い敬語。合ってるのか間違ってるのか分かんないし。
 そもそも高橋君はそんな事ひと言も言ってない、私の完全創作。この辺は営業職のスキルとして一応。絵に書いた餅生産機。


『こんばんは。先日のおまんじゅう、おいしかったです。実は、従姉妹から洋服を貰ったんだけど、少しカジュアルで私は着ない感じなんだけど、落合さんには似合いそうだなと思ってメールしました。興味があったらメールください』
 添付ファイルには、白地にレインボーカラーの細いボーダーが入っている長袖シャツの写真があった。可愛い、と一目惚れした。
『可愛いシャツだね。興味ありありです。他に譲り先が無ければ是非』

 シャツを譲ってもらうお礼としてちょっとした手土産にシュークリームを買った。
 今日は中田さんに伝えようと思っている事がある。
 彼女は私を「落合美奈」だと思っているけれど、実際今の戸籍上の名前は「沢田美奈」である事を。



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