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Misty room
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Misty room / from vanity-1

ビルの最上階から東京の街並を見下ろす。大きな横断歩道は人で溢れ、誰もが足早に通り過ぎていく。
何の感慨も起こらない。
私は望んだはずだ。
この景観を。
脇目も振らず、この地位まで一気に上り詰めた。出世の事だけを考え、些細なことは切り捨ててきた。きっと見落としてはいけない、大事なものもあったはずだ。
それは後悔だらけの人生だ。
けれど私は手に入れた。凡百の人々が一生かけても辿り着くことの無い高み。
莫大な富と、揺るぎない名声。だから私は胸をはって生きていくべきなのだ。
それなのに
広い社長室から見下ろす、狭い東京。
それが全てだと信じていた、あの頃。
それなのに、どうして虚しさだけが胸に残るのだろう。
走り抜けた先に、私は何を求めていたのか。
金?
名声?
それはそうだ。私の欲望は限りない。だからここまで来れた。
ここまで、来れた・・・?
ふ、と自嘲する。洩れるのは驚くほど渇いた笑い声。
そんなことに何の意味があるというのだ。
今まで無視し続けたものの中に、もっと大切な何かがあったのではないか。
もっと大切な、なにかが。
それを手にしていたのなら、この胸に残るものは、きっと。
「欲しいの?」
声がする方向に振り向いた。どこから入ってきたのか、ひとりの少女が私のデスクの上に座り、足をぶらぶらさせている。
「その何かが、欲しいの?」
とても真っ直ぐな眼差しだった。私は、だから答える。
「欲しい、欲しいね」
「今の自分を捨てても?」
考える。
駆け抜けた過去も、輝かしい今も、約束された未来も捨て去って。
在るかも分からない、あやふやなものを追い求めることが出来るのか。
私は目を閉じた。
暗闇が私を包み込む。
ここには何も無い。
ただ渇いた風が吹く。こころの奥に、渇いた風が吹く。
富も名声も明日も遠い未来も
残すは、虚しさの荒野。
「あぁ」
あぁ、ならばそんなものはいらない。
あぁ、だからどんなものもいらない。
「全てなくしてもいい。だから」
少女を見遣る。私の眼差しに、彼女は頷いた。
「じゃあ、連れてってあげる。平穏の街、mistyroom。そこは貴方の望む世界だから」
少女は柔らかに微笑んだ。
「あなたの余生をちょうだい」
言われて私は胸を抑えた。息が上手く出来ない。何故か足が震えて、その場に倒れこんだ。誰かが部屋に駆け込んでくる。秘書に次いで医者。みんな血相を変えて私を見ている。
どうしてだろう、視界は黒く染まり。意識が途切・・・



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