閉店間際-1
彼は、店内の時計を見た。
閉店20分前…
だから、25分前か。
達彦がアルバイトをしているレンタルビデオ店は、少しでも早く客に帰ってほしいからか、時計の針を進めてある。
大きいチェーン店ならば多少問題になりそうだが、数店舗しかないこの店では、店員も客も何も言わない。
「つまんねー…。」
達彦はなんとなく口に出して確認する。
誰もいない店内を声が回って、自分の耳に入る。
少し前までなら、もう制服のエプロンを丸めていた頃だが…。
彼はもう一度時計を横目で見る。
達彦が、そろそろかな、と思うと同時に、入口の自動ドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ〜。」
彼が反射的に口を動かしながら見ると、見慣れた顔がさっと目を逸らした。
---いつも土曜日の閉店間際に来る女性客。
私服だがあまり化粧っ気がなく、かなり若く見える。
コートの上からでも想像できる大きな胸に自然と目が行く。
彼女は美しい黒髪を、今日も束ねて後ろで結んでいた。
早足で端の棚に入っていくときに見えるうなじが艶かしい。
自分の好みのタイプだったこともあり、そんなに何度も来ないうちに顔を覚えた。
…個人的に会うなら大歓迎だけど。
バイトの身としては、ほとんどレンタルを利用しない彼女は片付けを遅らせるだけのどうでもいい面倒な客で、達彦は頬杖をついて閉店時間を待った。
どうせ今日も何も借りないんだろうな…。
彼は時計を見てため息をつく。
---しかし、
「…お、お願いします。」
達彦の予想に反して、彼女はレジテーブルに商品を置いた。
…借りるの初めてだな。
そう思いながら商品を見て少し驚いた。
それは、アダルトビデオ…所謂AVだった。
パッケージでは、女子校生に紛したAV女優が制服を半分脱いだ状態で、こちらを挑発的に見ている。
つい彼女の方を見ると、恥ずかしそうに俯いていた。
…今時珍しくもないけど、罰ゲームか何かか?
それとも彼氏に言われた、とか。
いかにも真面目そうに見える彼女には似合わず、つい余計な推測をする。
どのような理由があるかは知らないが、清純派という看板を出すには申し分ない彼女が、顔を赤らめてAVを借りる状況に妄想が膨らみ、達彦は少しだけ得をした気分になった。
彼は、何食わぬ顔でレジを済ませて、小走りに出口に向かう彼女を見送る。
「ありがとうございました〜。」
また来るかな、と達彦はなんとなく思った。
まぁ、もう借りないかもしれないけど…。