君を称える言葉が見つからない-1
古来から、男が三人集まれば話題は女の事……と、相場が決まっている。
「性格は知的かつ思いやりに溢れ、気品溢れる顔立ち。さらに贅沢を言えば、細身で胸が大きければ言う事なしだ」
ヴェルナーが、熱を込めて主張した。
「俺はやっぱ、可愛い子がいいなー。目とかパッチリしててさ。胸は……うーん、大きすぎないほうがいいかも。あと、料理が上手い子!」
ルーディも熱心に語る。
ここはフロッケンベルク王都の中心街に近い一軒家。
小さく平凡な造りで、とりたてて目を引く豪華さもない、ありふれた建物だ。
だが、キッチンにいる男たちは、およそ平凡とはかけ離れている。
この国の王ヴェルナーと、人狼の族長息子ルーディ。
いわば宿敵の代表各同士だ。
なのに話題は『好みの女性のタイプ』か……とは、キッチンにいる三人目の男はツッこまない。
それより、クッキーのタネを型抜きして焼き釜に突っ込みつつ、時折つまみ喰いに伸びるルーディの手をつねる方に忙しい。
「……で、お師さまは?」
唐突にルーディから話題を振られ、ヘルマンはやっと視線をあげた。
彼はルーディの師であり、ヴェルナーの非公式な相談役兼“叔父上”であり、この家の本来の持ち主でもある。
四年ほど前から、諸事情で遠いシシリーナ国の王へ仕えているが、故国でもヘルマンが処理しなれればならない難件はいくつもあった。
だから、たまにこうやって帰国するのだが……帰国してまずやるのが、不精な弟子が散らかした家を片付け、二人に焼き菓子を焼いてやる事だというのは、少々納得がいかない気もする。
しかし、基本的には全て『どうでもいい』のだから、まぁ良いだろう。
「はぁ?」
最後の天板を釜に放り込み、ヘルマンは聞き返す。
「ヘルマン殿の女性の好みか。私も大いに興味がある」
腕組みをしながら、うんうんとヴェルナーも頷く。
ヴェルナーは、二人だけの時はヘルマンを『叔父上』と呼んでいるが、親友のルーディにもそれは秘密なのだ。
「そうですね、強いて言えば……」
ちょっと考えてから、一つだけ思い当たった。
「後腐れのない相手です」
「うわっ!わかりやすい……ってか、生々しい!」
「ヘルマン殿らしいというか……外道の見本のようなセリフだな」
二人の若造から非難ごうごうの視線が向けられるが、ヘルマンは意に介さない。
外見だけはヴェルナーと同年代くらいといっても、百年以上も生きてれば、女性経験もしこたまある。
どれもこれも大差なかった。
「他には特に、思い当たりませんでした」
打ち粉や抜き型を片付ける手は休めずに答える。
「たとえば、家に帰ったとき出迎えてくれる嫁さんは、巨乳がいいとかスレンダーが好みとか!」
「もしくは、綺麗なお姉さんとか、可愛い妹タイプとか!!」
もはや意地になったルーディとヴェルナーの言い立てを、冷酷無慈悲な腐れ外道を自覚している氷の魔人は、平然と斬って捨てる。
「生憎、はるばる帰国しても、家にいるのは食いしん坊な人狼少年と、お忍び大好きな国王陛下だけですので」
「う……」
「それに容姿なんか、脳内で解剖すればどれも同じですよ」
「お師さま……女の子をどういう目で見てるんですか……」
ちょっとばかり意地悪したい気分になり、ヘルマンはニヤリと笑ってつけくわえた。
「割り切って見るコツを教えましょうか?立場から言って二人とも、政略結婚の路線が濃厚ですから」
「そんな割り切り方、御免こうむるっ!」
「俺だって、ちゃんと最高のつがいを見つけますっ!」
大慌てて首を振るヴェルナーとルーディは、もちろん自分の立場を自覚もしている。
こんな風にお気楽な会話も、この非公式な場だけのお遊びだ。
それでも、若いというのは良いですねぇ。
と、まだあーだこーだ言ってる二人の会話を聞きながら、チラっと思ったが、考えてみれば自分は若い時からずっとこうだった。
誰かに誘われた時、後腐れがないと判断さえすれば、年齢や容姿を気にした事はなかった。
幼女や男と寝た事はないが、もし必要だったら出来るとは思う。
(まぁ、極端な話、人間でさえあれば……)
しかしよく考えてみれば、そのあたりすらも怪しい。
断じてそういった趣味ではないが、ようは、「どうでもいい」のだ。
割り切るコツは、いつだってその一言だ。