旅行土産-2
「それはそうと、」ミカが言った。「おい、ケネス。」
「なんや?ミカ姉。」
「あんた、オンナ抱く時、いつも『ハニー』って呼ぶのか?」
「オンナ?わい、まだマーユとミカ姉しか抱いたことあれへんねけど。あ、そうやケンジもやったわ。」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくてだな、」ミカが眉間に皺を寄せて言った。
「俺もオンナ扱いかよ。」
「けっこう言うよね、ケニー、あたしのこともハニーって。」マユミが言った。
「英語圏の文化やからな。一種の。」
「じゃあ、マユミはケネスのこと、『ダーリン』とかって呼んだりするの?」
マユミは笑いながら言った。「それはない。あたし大和民族だから。」
「ねえねえ、ケンジ、ちょっと呼んでみてよ、あたしのこと『ハニー』って。」ミカが目を輝かせて言った。
「えっ?!」
「ハワイ焼けもしてたりするし、何となくそんな雰囲気じゃない?」
「いや、意味わかんないから。」
「いいじゃない、試しにさ。」
「な、何て言えばいいんだよ。」
「『愛してるよ、マイハニー』なんかどう?」
「ええな、ケンジ言うてみ。」ケネスがおかしそうに促した。
「あたしも聞きたいな。ケン兄のその台詞。」
ミカがケンジの首にそっと腕を回し、甘ったれた声で言った。「お願い、ケンジい。」
「あ、あ、愛してるよ、マ、マイハ、ハ、ハニー・・・。」
ぶーっ!ぎゃははははは!ミカは涙を流しながら笑い転げた。「似合わないわ、やっぱり。あはははは!」
「だったら、最初から言わせるなっ!」ケンジは真っ赤になって大声を出した。
ひとしきり笑った後、ミカは涙を拭きながら言った。「でも、さすがだね、ケネス、極めて自然にあたしのことそう呼んだからね、あの時。」
「血やな。わいのオヤジもおかんのこと、しょっちゅう『Honney』だの『Sweetheart』だの呼んでるで。”あの”おかんに対して。」
「”あの”おかん、なんて言うことないじゃない。」マユミがそれでもおかしそうに言った。
「さすがにおかんの方はオヤジのこと『ダーリン』呼ばわりはせえへんけどな。」
「呼ばないんだ。」
「何か企んでる時か、自分がしでかしたことをごまかすときには使こてるみたいやな。おかん。『ダーリン』って。でもな、健太郎や真雪のこと、オヤジもおかんもよく『ハニー』って呼んでるわ。」
「なるほど。かわいい孫だからね。」ミカが言った。
「ミカ、あの時ケニーにそう呼ばれてどうだった?」
「いやあ、不思議な感覚だったわ。なんかこう、包みこまれるっつーか、甘くとろけさせるっつーか・・・。オンナ口説くには最強の呼び方だね。」
「そうなんだ・・・。」ケンジは腕を組み、目を閉じてうなづいた。
「何?ケンジ、あなたもマスターしたいってか?誰を口説こうっての?」
「今度マーユ抱く時、言ってやり。きっと喜ぶで。な、ハニー。」ケネスはマユミに目を向けた。
「ううむ・・・・こうやってさりげなく使うのか・・・・。」
「おお、真剣に考えてる考えてる。」ミカが言った。「もう笑わないからさ、あたしで練習しなよ、ケンジ。」
「何の練習だよ。」
「あたし、ケン兄に言われてみたい。」マユミが頬を赤らめて言った。
「あたしもまたケネスにそう言われながら抱いて欲しいな。今度は優しくね。」
ケネスは頭を掻いた。
「にしても、」ケンジだった。「俺たち4人、もうすっかり垣根がなくなっちまったな。」
「そうだね。」マユミが言った。