【鳥は飛ぶ−かっこわるい2−】-1
この鳥は飛べやしない
欠けた翼
折れた心
ねえ
その世界は理想?
ねえ
この世界は小さいね
時々見せた
空仰ぐ視線
羨ましかった
切なかった
だから決めつけた
飛べやしない
嘘だって気付いた鳥は
大きく羽ばたいた
そうして
また一人になる
24歳の春。学生じゃない、かといって社会で認められる年でもない。中途半端な年齢と戦う。俺は何がしたいんだろうか。
「賢治」
「なぁ…賢治」
「おいっ!!けんじっ!!」
「…うるさいよお前」
「何だよそれ」
「…どうしたんだよ」
「ほれ、あれ」
俊の指す『あれ』。何かが動いている。
「何だ、あれ」
「鳥じゃね?」
アカシアの木が鬱蒼と繁り、空に向かって新芽を伸ばしている。そんな土手沿いの道に鳥かもがいていた。
「鳥だな」
「だろ?」
「…何してんだ?」
「知らないよ」
「だろうな」
「お前なぁ…」
隣に並んで歩く俊。履いているサンダルがペタペタと音を立てる。変に耳につくその音がうるさい。俺たちはだんだんと『あれ』に近づいていく。進行方向にもがく鳥。変な気分だ。
「逃げないね」
「だなぁ」
アカシアの木の奥に流れる川が今日は水かさを増している。
晴天なり。
反射する光が時たまアカシアの僅かな隙間を突き抜けキラッと光り視界に入る。
いつの間にか『あれ』は俺たちの足下。じたばたと羽を動かし黒い瞳がきょろきょろしている。
「何してんだこれ」
「飛べないのかな」
拳くらいの大きさ。茶色の体。黒いくちばし。
「鳥だな」
「どうしたんだろ」
そう言って手を伸ばす。
「おいっ俊」
「飛べないのかな」
包むように鳥を両手ですくい上げる。
「やめとけ」
「かわいそうじゃんか」
「だからって…」
いつもこうだ。俊は何でも関わろうとする。そして後から俺を巻き込む。
「どうするんだよ」
「どうって?」
問いかけてもこちらに顔も向けない。連れて帰る気だ。うんざりする。
土手沿いを二人と新たに一羽。当てのない暇つぶしの散歩。
この散歩にも飽き飽きしだした頃、犬を連れた家族とすれ違う。日が傾きだした日曜日、牧歌的な日。恨めしい。明るいものや穏やかなもの、そのすべてが俺には刺激物。
「よかった」
にこにこした俊。
「はっ?」
「犬。こいつ食われたかもしれないだろ?」
視線の先には両手に包まれ丸くなっている鳥。顔だけをきょろきょろと振り回していた。
明るく穏やかな日曜日。昨日まで続いた雨の名残はいつもより増している川の水量くらいなもので、いたって平和で、平和で吐き気がした。