【鳥は飛ぶ−かっこわるい2−】-3
『明後日帰るよ』
「ふぅん」
『鳥、元気?』
「あぁ」
『ちゃんと世話してくれてる?』
「まぁ」
『ご飯食べてる?』
「あぁ」
『ねぇ。ちゃんと聞いてる?』
「えぇ」
『あ〜!!もぅ』
「あいつ、飛びたいらしいぞ」
『ん?なんで』
「そう言ってた」
『へぇえ』
「飛ばせていいか?」
『はぁ?』
「飛べないんだよな」
『賢治。言ってる事わかんない』
「まぁな」
『なんだそれ』
バイトを休んだ。今月になって何回目だろう。俗に言う無断欠勤って奴だ。そろそろクビにしてくれないかな。なんて卑怯なことを考える。
窓を思いっきり開け、部屋に外気を入れる。昨日あたりから鳥が当たり前のように手に乗ってくる。羽をばたつかせ、ひょこひょこと近づいてくる。変な気分だった。
「飛びに行くか」
話しかけてみた。チチチッと鳴ききょろきょろしている。
「飛んでいいんだぜ」
窓の外は今日も真っ青な空が広がっていた。
唐突な出来事だった。その少し前から鳥が窓の縁を左右に行ったり来たり。時々立ち止まってチチチッと鳴いていた。いつもより騒がしかった。
開け払った窓。もうすぐ夜という時間。空にうっすらと夕焼けが残っていた。
空を鳥が飛んでいた。飛べない鳥がチチチッと騒いだ。
そして、
そして突然飛び立った。
振り返りもせず飛んでいった。
空に月が出ていた。その隣に明るい星が一つあった。
鳥は飛んでいった。やった。と思うが、なぜか涙が止まらない。なぜだか体が悲しみを感じていた。
どうしたらいいかわからなくなり唐突にケータイを鳴らす。
『ん』
「仁志…どうしよぅ」
『なに?』
「飛べない鳥が飛んでっちまった」
『…そっか』
「飛んでいっちまった」
『なあ賢治』
「…わりいな。意味不明だな」
『空、見えるか?』「空?」
『ああ、空』
見上げた。そこは既に夜。窓の縁に手をついて見上げる。飛んでいった鳥。残された自分。
飛べないのは…俺だ。
『飛んだんだろ?鳥』
「ああ」
『その空をさ』
飛んでいったんだ。この空を。
『なぁ。月、あるか?』
「…」
『月だよ』
「ああ」
『その左隣に明るい星』
「ああ」
仁志が何を言いたいのかわからなかった。
『月の下にさ、見えるかな。縦に星が三つ並んでる』
「ああ。ある」
『明るい星とさ、三つ星の間。なぁあの星、変に赤くないか』
「…あぁ。…赤い」
こいつ。俺と同じもの見てる。