旅行前夜-4
やがて健太郎兄妹も静かに寝息を立て始めた。奥のケネスの部屋のドアが静かに開けられた。ケンジとミカはすぐにそれに気づいた。ドアの隙間からケネスが二人を手招きした。
「やっと寝たみたいやな、子供ら。」
「ああ。まったくしつこいったらありゃしない。」
ケネス夫婦の寝室にケンジたちは入って、ソファに腰を下ろした。マユミがアイスティの入った4つのグラスをテーブルに置いた。「年頃なんだもん、しょうがないよ。」
「それはそうと、」ミカが言った。「健太郎と真雪、手握り合って寝てるよ。」
「えっ?!」マユミが驚いて言った。「本当に?」
「年頃の兄妹にしては日頃から仲がいいな、とは思っていたけど、ちょっと仲良すぎなんじゃない?」
「小学校の終わりまで一緒に寝ててね。その時はずっと手を繋いで眠ってたんだよ、あの二人。」
「へえ、誰かと同じだな。」ケンジがマユミの左手をそっと両手で包み込んで言った。
「ケンジたちもそうやったんか。」ケネスがストローを咥えながら言った。
「でも、高二になってもそんなことするなんてね。」
「もしかしたら・・・・。」ケネスが言った。「親子二代で危険な恋に落ちるんかいな。」
「ど、どうする?どうする?マユ。」ケンジが焦ったように言った。
「ま、なるようになるんじゃない?」ミカは比較的楽観的だ。「あの二人いとこ以上、兄妹未満なわけだしね。」
「親としては心配だけど、気持ちはよくわかるよ。ねえ、ケン兄。」
「そ、そうだな・・・。」ケンジはアイスティのストローを咥えた。
「楽しみだな、ハワイ。」ミカが言った。
「そやな。家族みんなでわいわい楽しめるっちゅうのは幸せなこっちゃな。」
「でも、どうしてこの日を選んだんだ?」ケンジが言った。
「そりゃあ、あなたたちの記念日だからに決まってるじゃない。年に一度のスイートデー。しかもあれから丁度20年目。」
「あれから、って、まるで見てたように言うなよ。生々しすぎだ、ミカ。」ケンジは赤くなった。
「あの日のことが、まるで昨日のように思い出される、でしょ?」
「な、何もこんな日に、こんな大層なことしてもらわなくても・・・・。」
「何?迷惑だっての?」ミカがケンジをにらみつけた。
「い、いや、そうじゃない、そうじゃなくて、俺たちに、そんなに気を遣われると、何だかこう・・・・。ただでさえ後ろめたいのに、ますます申し訳ない、っていうか・・・。」
「ふっふっふ・・・・。」ミカが不敵な笑いを浮かべた。「あたしたちには、もっと深遠な計画があるのよ。」
「あたしたち?」マユミが言った。
「そう。あたしとケネス。」
「え?わい?」ケネスは自分の鼻を指さした。
「ケニーは何にも知らなそうだぞ、ミカ。」
「こらっ!話を合わせろ!ケネス。」
「そ、そうや、し、深遠なけ、計画があんねんで。」
「もう遅いわっ!」
4人は笑い合った。
「あなたたちさ、この旅行中は何にも気を遣わなくていいからね。心の底から楽しみな。せっかくの年に一度の記念日なんだし。あたしもケネスもあなたたちの邪魔はしない。約束通りね。」
「みんなで楽しもうよ。」マユミが言った。
ストローから口を離してミカは顔を上げた。「え?みんなで?」
「そう、みんなで。」
「よし。わかった。みんなで楽しもう。」
「ミカ姉、何か一人で盛り上がってへん?夜中なのに・・・。」
「楽しむぞ、ケネスっ!」ミカはケネスの背中をばしばしと叩いた。