旅行前夜-2
季節が巡り、夏が来た。「Simpson's Chocolate House」の駐車場のプラタナスの木々でも、けたたましく蝉が鳴いている。
8月2日の昼過ぎ、ケネスの家の裏にある『離れ』のリビングに7人が集合した。
ケネスとその妻マユミ、その二人の子供で双子の健太郎(16)と真雪(16)。ケンジとその妻ミカ、そしてその一人息子の龍(12)。
「いつ来ても懐かしいな、ここは。」ケンジが部屋を見回しながら言った。
「あの頃よりちょっとばかり狭くなったけどな、」
「あの頃って?」龍が訊いた。
「ああ、龍の父ちゃんはな、マユミおばさんといっしょによくここに遊びに来てたんやで。」
「へえ。」龍も部屋を見回した。「広いよね。」
「あの奥の部屋はな、このリビングの一画を使ってその後増設したんや。それまではあの部屋の分広かったんやで。」
この『離れ』の一階部分はケネスとマユミが結婚してから間もなく、奥の一画が彼らの寝室に改造されたのだった。二階のケネスの部屋はその後二つに仕切られ、二人の子供のための部屋に造りかえられていた。
「さあ、明日から超豪華バカンスの始まりよ。ガキ共、今日は夜更かししないで早く寝てしまいなさいよ。」ミカが言った。
「しかし、なんでこの夏の暑い時期に、ハワイなんだよ。」ケンジがちょっと冷めたように言った。
「同じ暑いんだったら、観光地の方がいいじゃない。」
「ケンジおじ、何だかつまんなそうね。」真雪が言った。
「何か乗り気じゃなさそうだけど・・・。」健太郎も言った。
「ほら、子供らまであなたに気を遣ってるじゃん。大人げない態度とるのやめなよ。」ミカがたしなめた。
マユミがくすっと笑って言った。「相変わらずだね、ケン兄。」
「相変わらずって?」龍が訊いた。
「あなたのお父さんね、大の飛行機嫌いなんだよ。」
「えー、この歳になって?」健太郎が大声で言った。
「ほっとけ!」