二人の夏-1
こうして私マユミと双子の兄ケンジとの約二年半に及ぶ蜜月には終止符が打たれました。
後で兄に聞いた話によると、私たちが最後の夜を迎えた時点では、兄にはまだ交際中の女性はいませんでした。私との区切りをつけたかった兄は、嘘を言って私をある意味突き放したのです。最後まで私のことを想い、本当の幸せを願い、大切にしてくれた優しい兄ケンジでした。
その後私はケネスと結婚しました。予定よりも早く、私が短大を卒業する前に籍を入れました。妊娠していたからです。12月に私は子供を産みました。偶然ですが、男女の双子です。そう、私と兄のように。短大はがんばって卒業しました。出産で単位が危なかったのですが、なんとかぎりぎりで卒業できました。お腹の大きくなった私を友だちはみんないたわってくれました。ケネスと結婚することを割と早くから公言していたからです。
息子の名前は健太郎、娘は真雪(まゆき)です。彼らは来年、私と兄が初めて結ばれた年齢になります。健太郎はあの頃の兄ケンジに驚くほどそっくりで、小さい頃から兄に水泳を習っていることもあり、当時の兄のような体格、兄のように優しい男の子に育ってくれました。兄ケンジを心から慕っていて、兄はまるで二人目の父親のようだ、とみんなから言われています。真雪は私に似て小柄で、歳の割には幼く見られているようです。これもあの時の私によく似ています。この子たちを見ていると、おのずと私と兄ケンジとのあの甘い日々が思い起こされ、身体が熱くなることもあります。
健太郎と真雪は双子なのに血液型が違います。それには訳があります。実を言うとそれは私の密かな企てでした。私の血液型はO型、夫のケネスはAB型です。生まれた娘、真雪はA型ですが、健太郎はO型です。つまり、健太郎は私とケネスとの子供ではないのです。
私は、あの最後の夜、兄ケンジとのセックスで妊娠する可能性が高いことを知っていました。その前日のケネスとのセックスでも。私はどちらか二人の子供をその時に授かりたかった。自分では決められず、ある意味天に任せたのです。思えば兄ケンジへの未練が相当強く残っていたのでしょう。兄ケンジとの日々の証が何らかのカタチとして欲しかったのかも知れません。もちろんケネスには思い切って正直にそのことを話しました。すると彼は笑って赦してくれました。ケンジの子供だとしても、自分の子として変わりなく育てる、と言ってくれました。もしかすると、それはある程度ケネスも覚悟していたことだったのでしょう。ケネスも私の気持ちを本当に大切にしてくれる、優しい夫です。そしてもう一人、それを理解し、赦してくれた人がいます。ミカさんです。
兄は大学を卒業してすぐ、兵藤ミカさんと結婚しました。彼女は兄より二年早く卒業し、大学のある町の企業に就職していましたが、兄との結婚を機に、私たちの住むこの町にやってきて、今は兄と二人でスイミングスクールを経営しています。結婚してすぐから二人が勤めていたこの町唯一のスイミングスクールの経営を前の経営者から受け継いだのです。健太郎も真雪もそこに通って、二人から指導を受けています。
ミカさんも、私と兄の関係についてはすべて知っています。健太郎が私と兄の子であることも。彼女は兄との交際中からそのことを理解していて、それを知った上で結婚したのだから、自分が二人を責めることはできない、また責める気持ちもない、と言ってくれました。考えてみれば私たち兄妹は、本当にいい人たちに囲まれて誰よりも幸せに暮らしていけているんだなあ、と思います。感謝の毎日です。