最後の夜-6
「ごめんごめん、海棠君。まじめにいこうか。話して聞かせて、君の今のもやもやの中身。」
「俺、マユが大好きなんです。先輩が言うように、もう一線を越えてます。高二の時から続いてるんです。」
「へえ!すごいね、相当想い合ってるんだね。君たち。」
「恥ずかしい話ですけど・・・・。」
「別に恥ずかしがることないんじゃない?」
「でも、冷静になって考えてみると、俺たちの関係って、異常です。」
「まあ、世間一般の考え方でいけばね。」
「このまま、こんな関係を続けられるはずがない、そう思うんです。」
「理性が成長してきたってわけだ。それでも、マユミさんを目の前にすると愛しくてたまらないから抱いてしまう。一人になると、このままではいけない、って思っちゃうんだね?」
「そうです。」
「結論は一つ。君たちは結婚できないから、ある位置まで引き返す必要がある。」
「ある位置?」
「そう。いわゆる兄妹の関係まで。」
「そうですよね、やっぱり。」
「でもま、兄妹でセックスしちゃいけないっていう決まりはないから、あんまり深く考えなくてもいいかもしれないけどね。」ミカは麦茶を一口飲んだ。「問題はそのプロセスだね。」
「プロセスですか?」
「いくつか考えられるね。一つ目、マユミさんに彼氏を作ってやる。君があきらめがつくような彼氏をね。でもそれは辛いだろうね。二つ目、君が彼女を作る。君が惚れ込んで、マユミさんへの想いを忘れてしまうような彼女を。これもなかなか実現できないかー。三つ目、マユミさんの情報を絶つ。会わないのはもちろん、メールも電話も、彼女を想起させる全てのアイテムを処分する。」ミカはため息をついた。「それもやっぱり無理か・・・・・。」
「でも、先輩の仰るとおり、その方法しかないと思います。」
「でもさ、海棠君、あんまり無理しない方がいいと思う。」ミカが優しく言った。「人の気持ちって、そう簡単に割り切れるもんじゃないよ。君たちもまだ若いんだし、マユミさんの気持ちも大切にしなきゃいけないでしょ?君だけであれこれ悩んで、それこそ突っ走るのは考えもんだと思うよ。」
「・・・ありがとうございます。」
「めそめそすんな!悩んだら呼びなよ。あたし、いつでも下から食料持って来てあげるからさ。」
「ミカ先輩・・・。」
「ただ、ビール二、三本冷蔵庫に入れといてね。」
ケンジは久しぶりに笑った。「わかりました。買っときます。」
「そうそう。笑ってな。少しは気が晴れるからね。」
それから二人は目の前の肉まんを食べ続けた。ケンジも久しぶりに満腹になるまでそれを食べた。
部屋を出る時、ミカは振り向いて言った。「君を見てると、何だか弟みたいな感じがするよ。じゃあね。」