最後の夜-4
季節が代わり、街の木々がその葉を落とし始めた。
「どないしたんマーユ。」ケネスが生クリームのボールを持ったまま訊ねた。「元気ないな。」
「寂しいんだ、あたし。」
「ケンジに会えへんからか?」
「うん。それもある。」
「それも、って、他に何かあるん?」
その質問に答えることなくマユミは言った。「でも、あたし、ケニーがそばにいてくれてすっごく助かってる。精神的に。」
「わいが?」
「そう。あなたとケン兄が親友で、ほんとに良かった。ケニーは今のあたしの心の支えなんだ。」
「心の支え・・・、光栄やな。」ケネスは生クリームをかき回し始めた。「マーユ、あんさんこの先どないするん?」
「この先って?」
「短大出てからの話や。」
「まだ、はっきりとは・・・・。」
「経営やらマーケティングやらの勉強しとんのやろ?」
「うん。」
「自分に合ってると思てる?」
「うん。勉強は楽しい。」
「ほたら、」ケネスはクリームのできあがったボールを氷水に浸して、手をタオルで拭きながらマユミに向き直った。「この店に就職せえへんか?」
「えっ?!」
「わい、ここの跡継ぎになんのやけど、親父もおかんも経営に関してはちょっと弱くてな。マーユが力を貸してくれると助かるんやけど。」
「そ、そんないきなりそんなこと言われても・・・。」
「わかっとる。わいもまだ修行中やし、すぐにっちゅうわけやあれへん。けど、もし、マーユが短大卒業する時、その気になってたら、ここに来てくれへんか。」
「あ、あたし・・・・。」マユミはうつむいた。
「ごめん、マーユ。かえって元気なくさせてしもたな。」ケネスはマユミの手をとった。「ケンジとも相談し。」