最後の夜-13
マユミは膝を抱えて長いこと暖炉の前に座っていた。彼女は燃える暖炉の火を、泣きはらした目で見つめ続けていた。
「ケニー、」やっと口を開いたマユミに、ケネスは顔を向けた。「マーユ・・・・。」
「あたしが好き?」
「・・・・好きや。」
「本当に?心から?」
「好きや。もちろん心から。一年ぐらい前から、マーユのことしか考えられへんようになってた。」
「あたし、変なのかな・・・。」マユミはケネスの目を見て言った。「あたしも、ずっと前からケニーのこと、気にしてたのかもしれない。でも、ずっとケン兄のこと一番好き、この人しかいない、って思ってた。」
「知ってる。」
「絶対どっちか選ばなきゃいけないのかな・・・・。もう一人を好きなままでいること、許されないのかな・・・・。」
「わいは平気やで、マーユ。マーユがケンジのこと好きなままで、わいはマーユを好きになれる。」
「そうなの?」
「ケンジへの想いごと、わいはマーユを好きになったんやから。無理してケンジを遠ざける必要なんかあれへん。そう思うけどな。」
「ケニー・・・。」
「マーユ、自分に嘘ついて苦しまんでもええ。今の気持ちに正直になり。」
「ありがとう、ケニー。」マユミの目に再び涙が宿った。「あたし、ケン兄とお別れするのに、あなたがいなければ本当に壊れてた。受け止めてくれる人があなたで本当に良かった。」
「マーユ・・・・。」
マユミは涙を拭って顔を上げた。「びっくりしないでね、」
「え?何やの?」
「あたし、あなたと結婚したい。」
「ええっ!」
「驚かせてごめんね。でも、もう決めたんだ。短大出たらすぐ、結婚して。」
「け、結婚やなんて!わいら、まだ19やんか。」
「ケニーがあたしのこと、これからもずっと大切にしてくれるなら、約束してほしいんだ。」
「マ、マーユ・・・・・。」
「ふふ。驚くのも当然だよね。あたしも今初めて口にしたことだから。今から両親やケン兄と相談しなきゃいけないことだし。」
「わ、わいはもちろん、マーユと結婚できれば、こんなに嬉しいことはあれへん。き、きっとわいの両親も賛成してくれる。そやけど、答を出すのん、も、もうちょっと待ってくれへんか。」
「いいよ。待ってる。でも、」
「でも?」
「あたし、今夜ここに泊まっていい?」
「な、何でやねん。」
「ケン兄と顔合わせるの、つらいから・・・・。」
「そやけど、マーユ・・・・。」
「お願い。」
ケネスは少し考えてから言った。「・・・・ほな、おかんに頼んで、うまいことマーユのご両親には説明さしたるわ。」
「ごめんね、わがまま言って。」
「気持ちが落ち着くまでここにいたらええ。」
「ケンジ、」母親が部屋のドアをノックした。
「何だい?母さん。」
母親はドアを開けて顔だけ入れて言った。「マユミ、今夜はケニーくんちに泊まるんだって。ケニーくんのお母さんとバイトのことで話が長くなるからって。」
「ふうん。」ケンジはベッドにごろんと横になった。母親の足音が階下に消えると、ケンジはベッドの隙間からマユミのショーツを取り出した。そしてその匂いをちょっとだけ嗅いだ後、呟いた。「マユ・・・・。ごめんな。俺のせいで遠回りさせちゃったな・・・。」