『シロクロ』-1
二枚のレンズ越しに、鳥の鳴いてる方を眺める。下手なその歌に顔をしかめて、耳を塞ぐ。
文字では表記出来ないような声を上げて、ガラガラと窓を閉める。それでも、所詮味噌の小さな唄歌い。人間のブーイングはあっさり無視されて、ボリュームは窓の厚さ分しか減ることは無かった。
レンズ一枚を目から引き剥がして、投げ捨てた。
鳥は破裂音に少したじろいた様子で、3秒程歌うのを辞めた。
それでも朝が嬉しいらしく、鳥はさらなる不規則なメロディを歌う。
窓を細く開けて、鳥と同じようにがなってやった。一枚だけのレンズで、声の聞こえる方を見ていたら酷く疲れた。
窓は細く開けたまま、眠りに就くことにした。
―――――
目を開いて、物を考えるようになってから4時間。
レンズ二枚で、今眺めるのは自分自身。
レンズも割れていないから、色の認識できる世界を見れた。
鳥の歌を聞いた人間は消えていて、全てをレンズを通して見ている愚かな人間しか居ない。
眠る前の出来事は、遺伝子に組み込まれない。昨日と変わらない身体と顔を、パシパシ叩いて赤く染めあげた。
髪を引っ張りあげて、痛くて気を失った。
最後に見たのは、レンズの輝きだけでその向こう側は覚えていない。
――――――
それは一瞬かもしれなかったけれど、それは何時間でもあった。
時計なんて物はオモチャと同じだったから、気が付いた時に3時に合わせてお菓子を食べるようにしていた。
時間の感覚と感情を奪われた睡眠から、揺らされた感覚を与えられて目覚めた。
身体は赤くなくて、レンズも壊れていなかった。
揺らした手がとても自然に身体から引かれたものだから、とっさに身体を起こした。
レンズを付けているとばかり思っていたのだけど、一枚レンズが落ちていた。釈然としない気持ちを隠すためと、本当の色を見る為にレンズを拾って張り付けた。
身体は少し赤くて、レンズにヒビが入っていた。
全て夢だと思った。
それから1時間後に、粉ごなのレンズを見つけた。蜘蛛の巣に散る、雨粒のようにそれは輝いていた。
粉ごなレンズを見付けられたのは、そのレンズを踏んだからだった。痛かったから足を見て、血がにじんでいたからレンズに気づいた。
繋がっている順序をちょきんと切るために、その粉ごなのレンズはそのままにして置いた。
29時間トラップにかかる獲物を待っていたけれど、誰もそのレンズで怪我をしなかった。
いつの間にか目を閉じた。
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いつの間にか目を開けた。
痛そうな顔と包帯が見えて、何故だろうと思った。獲物はネズミぢゃなく、人間だったから。
切口が思うように行かないのは、初めての事では無かった。でも確かに順序は絶たれて、これから何が起こるかは予想がつかなくなった。
楽しくなったのは、赤いビーズみたいな粉ごなのレンズのおかげでもあった。
時計を3時に合わせて、お菓子を口にした。