13 令二-1
「今度のバーベキュー、彼氏も連れてくるんだって?」
俺は昼飯を食っている時に、バーベキュー幹事であり、俺の尊敬するチームリーダーである鈴木さんから、その事を聞いた。
先日の、志保ちゃんの怪我が頭を過ったのは言うまでもない。その加害者たる彼氏が、会社のバーベキューに顔を出すと言うので、驚いている。
まさか皆の前で志保ちゃんに手を上げる事など無いだろうが。
「うん、みんな家族連れで来るし、どう?って試しに訊いてみたら、来るって。私も意外でびっくりしたんだけど」
濁度のデータを見ながらブラインドタッチでテンキーを忙しなく叩く志保ちゃんを暫し眺める。
「何?」
俺の視線に気づいたのか、こちらに顔を向ける事無く話す。
「いや、彼氏、と同棲してるんだもんね。家族みたいな物だもんな」
「ん、そうだね」
そこに俺が入り込む隙なんてない事は分かっている。勿論入り込もうなんて汚い事は考えちゃいない。
ただ、時折暴力を振るう彼にぞっこんな志保ちゃんを見ていると、そこに割って入りたくなる。
俺は暴力振るわないよ?どっちがいい?なんてね。俺は志保ちゃんに惹かれている。これは紛れもない事実だ。
それでも志保ちゃんは今の彼を選ぶんだろう。
暴力を振るう事をも帳消しにしてしまうような魅力があり、何か埋められない過去の経験を埋めてくれるような、そんな彼氏なんだろう。
そんな風に考えていると、段々と彼の事が「良い人」の様に思えてきた。
バーベキューでは話し掛けてみよう。確か歳は俺と同じだったと記憶している。