7 朋美-2
「お茶しますか」
タイ料理をたらふく食べた私たちは、志保ちゃんのひと言で次の目的地をカフェ「ディーバ」に定めた。ビルの2階にあり、大きなガラス窓からは、目線と同じ高さに走る電車が見える、2人のお気に入りカフェだ。
私はマンゴーフラペチーノ、志保ちゃんはカフェモカを頼んだ。まだフラペチーノを飲むには寒い時期だった、と注文をした後に後悔した。
「木曜にもここ、来たんだ」
窓際にひとつだけ空いていた席につくなり、志保ちゃんは言った。
「え、そうなの?彼と?」
「ううん、同期の男の子と。私の歓迎会の帰りにね。彼の酔い覚ましの為に」
「え、それって彼氏に知れたら烈火の如く嫉妬されるんじゃない?大丈夫?」
志保ちゃんの彼の嫉妬深さはよく知っている。あまりエスカレートすると――とは考えたくないけれど。女の私が相手でも嫉妬する事が過去にはあった。
「それがね、あそこの木、見える?」
「うん」
そこには大きな桜の木が植えられていた。既に花は散って葉桜になっている。
「あそこから見られてた」
「えぇぇぇぇっ。何で?大丈夫だったの?」
「大丈夫ではなかったけどね。相手がね、今後も付き合いがある同じグループの同期君だから、困ったなぁと」
相手が男とあっては、それは嫉妬も膨れ上がるだろう。
志保ちゃんの「大丈夫ではなかったけど」というひと言に、何かしら違和感を感じた。そこは普通「大丈夫だったよ」というべきだろう。
「まぁ、普通は、仕事の相手だから、って割り切ってもらうんだろうけど、志保ちゃんの彼の場合はちょっと難しいよねぇ」
「ん。次見つけたら同期君を殺すって」
「はぁっ?殺害予告?」
ため息を吐きながら小さく頷く志保ちゃんの顔をまじまじと見た。
嫉妬されて嬉しいなんていう気持ちは微塵もなさそうだ。本当に、困っているんだ。
「ちょっとそれは危険だよ。今度は2人きりでお茶なんてしないようにした方が良いよ。何と言うか――こんな事言うのもアレだけど、志保ちゃんの彼ならやってのけてしまいそうな――。ごめん」
志保ちゃんは静かに笑って首を振った。
「謝らなくていいよ。ホント、やりそうだから困っちゃうよね。次は2人きりは避けるようにする」
彼の強烈な嫉妬に対して、怒るでもなく笑うでもなく。まるでそれを享受してしまっている志保ちゃんを、本当に心配するようになったのは、この頃からだったと思う。時々しか顔を合わせない私に、こんな話をしてくれるのは、何かのサインだったのかも知れない。