5 志保-2
頭を打ったのが原因か、鳩尾の2発目が原因なのか、私は気を失っていた。目を覚ますと明良の腕の中にいた。
「志保っ、大丈夫かっ?」
大丈夫かって明良が私に――。
「ごめん、俺、またお前に酷い事しちゃったよ。どうしよう、もうどこも痛くないか?腕赤くなってるけど、痛くないか?」
「ん」
小さく頷いて見せると、明良は安堵の表情を漂わせ、目には涙が浮かんでいる。
「良かった。お前しかいないんだよ、俺には。お前がどうにかなっちゃったら俺は生きていけないんだよ」
「ん」
もう一度頷く。明良は私の身体に覆い被さるように倒れ込んで来た。
言い訳を何度聞いた事か。何度彼の涙を見た事か。
これを世の中では『ドメスティックバイオレンス』だったり、『共依存』だったりと名前を付ける事は知っている。自分はその枠の中にいる事も理解している。
それでも私は明良を手放せなかった。
彼は、私と同じだから。
彼の悲しみは、私の悲しみだから。