『スキンヘッド』-2
クルクルと回りながら、二人からずっと遠くへ。空間にも時間はあった。二人にも確かに時間はあった。
片方の頭の震えは、静寂の長さに負け、いつの間にか消えていた。時間、それは二人の手足の先を冷やしていった冷却剤。
二人は自身の膝を抱く。強く、痕がついてしまうくらいに。物音はしない。片方の腕は直ぐに緩んで、床へだらんと落ちた。片方はずっと膝を抱き続ける。目を開いたまま。汚れの目立つ壁に、片方の顔を見い出しながら。瞳はほどなく乾いて、ツンッと鼻が痛くなった後、涙が溢れた。
白いカーテンが風に押され、部屋側に膨らむ。二人は目を窓に向ける。昼か夜か、そして朝か。光の加減だけでは、それを知ることは出来なかった。二人は目を伏せる。そして瞼を閉じる。眠る訳ではない。でも、瞬きのように素早い行為でもない。片方の瞳から、必然的に涙が落ちた。
昼か夜という次元からの逃避。時間という観念からの飛躍。
クルクルと回りながら、白いカーテンと共に空間は二人の元に戻ってきた。
背中合わせに、二人は同時にそれを感じる。片方がついたため息にも、風が止みカーテンが力なく垂れた事にも。
風にも時間は流れ、二人にも時間は流れている。
片方は光を窓に感じ、片方は闇を窓に感じた。
片方はそれが朝だと思い、片方はそれが夜だと思った。
二人は何も言う気はなかった。クルクルと、どんどん戻ってくる空虚でしかない空間に違和感が生じる。空気の乱れ。震えない空気の粘りが、二人の足に絡み付いている。
片方は此処に居てはいけないと思った。
カーテンは片方の身体のようなラインを描いて膨らんだ。一瞬。一瞬は、時間の切り放した一時。それを感じ取れてしまった二人は、時間を否定する事を止めた。
二人は探りながら手を繋ぐ。指と指は求めあう事もなく、さりげなく絡み、そして離れた。指の体温差が、二人が一体でないことを示した。二人はお互いの指をちらりと見て、再び目を閉じた。
此処に居てはいけないと感じた片方は立ち上がる。
そして片方は、その場で頭を上半身ごと倒す。床の冷たさに顔との体温差を感じる。
白いカーテンは、片方の身体のラインのように膨れてしぼむ。
片方が眠りに落ちる頃、片方はこの空間から抜け出した。
空間は二分して、双方の背中にへばりついた。背中が重いのは、意気なり空間を一人で抱え込んだせい。
カーテンの記憶も、指の記憶も、全て二分されて自身の取り分は増えてゆく。
夜を感じた片方には朝が訪れた。朝を感じた片方には夜が訪れた。今が朝か夜かは、分かる筈がない。
二人はそれを、知ろうと為ていない。
カーテンは冷たい床に落ちる。同化ではなく、それは変化である。