暗灰色の狂狼-3
……よろめきながら、ルーディは立ち上がった。
勝った。
黒い狼の息の根を止めた。
だけど、それがなんだ?
渇きはまだ治まらない。
まだ足りない。
もっともっと……
「っ……」
不意に、かすかなうめき声が聞えた。
ホールの中央に転がっている女が、かすかに身じろぎする。
手負いの獲物。まだ息のある獲物がいた。
乾いて飢えてたまらない。喰らい尽くせ!
跳躍し、一気にとびかかる。
ホールいっぱいにむせ返るような血の匂いが立ち込めている。
何頭もの人狼の血と、それから……それから……甘い……ひどく甘い……
「ぐ……」
柔らかそうな白い皮膚につき立てられる寸前で、牙が止る。
女から溢れ出る血の芳香が、鼻腔を柔らかく満たした。
満たされて……いた。
『ルーディ……』
愛情を込めて呼んでくれる声。
抱きしめてくれた華奢な腕。
一生懸命作ってくれた焼き菓子の味だって、思い出した。
どうして……忘れてたんだろう……
飢えも乾きも、とっくに俺は満たされていたじゃないか。
彼女が満たしてくれた。
この世でただ一人の、俺の”つがい”が満たしてくれた。
「…………ラ……ヴィ……?」
獣の身体は、気づけば人の型へ戻っていた。
青ざめて脂汗を浮べたラヴィが、薄っすら目をあけてルーディを見た。
かすかに動いた唇が、小さく笑みの形をつくる。
あぁ、そうだ。
初めて見た時、なかなか可愛い子だと思った。
無理やり晒された処女膜なんかより、この子が笑った顔を見たいなぁ、と思った。
……やっぱり、俺は間違ってた。メチャクチャ可愛いどころじゃない。
(ラヴィは、世界一可愛い)
目の前が暗くなって、気が遠くなる。