囚われのつがい-2
「ルーディ!」
二人の男が引き摺るように連れてきたのは、ルーディだった。
人狼に革紐の拘束など意味をなさないのだろう。代わりに二人の男は、ルーディの両腕をしっかり捕らえており、さらに数頭の狼が周りをうろうろ警戒している。
ルーディも部屋の中に入れられ、数歩駆け寄れば抱き合える距離になる。
思わず駆け寄ろうとしたラヴィの腕は、後からヴァリオにしっかり掴まれた。
ルーディは酷い怪我をしていた。
無数の噛み傷や引っかき傷から血が流れている。
「ラヴィ……」
前髪が短くなり、さらけ出されてたラヴィの蒼白の顔を見て、ルーディはヴァリオに怒り狂った顔を向けた。
「ラヴィは人間だ、一族の問題に巻きこむな!!」
「つがいだと言うなら、一族の問題に加えてやるのが当然だ。この娘を巻き込んだのはお前だろう」
平然と痛点を突かれ、今度はルーディが蒼白になる。
「それより、不思議でたまらないだろう。なぜ我らの匂いを感知できなかったか」
言葉を失ったルーディを満足そうに眺め、ヴァリオが口をあざけりの形に歪めた。
「特殊な薬草を見つけたのは、お前だけだと思っていたのか?俺も、随分前に見つけていたのだよ。ただし、お前とは違う種類だ」
人狼の族長は、花瓶に生けられていた細長い草を一本抜き取り、するどい犬歯で喰いちぎった。
「面白い事がわかってな。これを食べると、同族から匂いを感知されなくなるのだよ。さらに気分が高揚し、より身体能力を高められる」
「そんな……そんな事をしたら、発作の確立があがる!」
悲痛なルーディの声に、同意を示した人狼は誰一人いなかった。
「っ!?」
急に顎を掴まれ、ラヴィは上をむかせられる、犬歯のちらつく残忍なヴァリオの顔がすぐ近くにあった。
「ルーディ、貴様の処刑を取り下げる事はできんが、しかし……女、お前は助けてやっても良い。アイツのつがいとなるのを止めると言えばな」
「な……」
「つがいから裏切られるのは、人狼にとって一番屈辱的な事だ」
ヴァリオの言葉に、他の人狼たちがそろって同意の声をあげる。
「な!?そんな、私は……」
不意に、背後からルーディの冷ややかな声が聞えた。
「裏切るも何も、ラヴィは最初から俺に強要されただけだ。彼女は狼が嫌いなんだよ」
「ルーディ!?」
驚いて振り返った。
今でも狼は怖いし、最初に望んでくれたのはルーディだった。
だけどラヴィだって、それ以上にルーディに惹かれている。
強要されたわけじゃない……愛してる。
「ずっと一人で……まぁ俺も、寂しかったんだろうな」
ルーディの口元が皮肉な笑みの形に吊り上がる。
「つい適当な女を買って、つがいになれなんて脅したけど……所詮、人間のメスだ。一度抱いたら飽きた。だからラヴィ、好きに逃げればいい」
「ルーディ……」
目じりが熱くなって、涙が浮かぶのがわかった。
呆れてしまう。
こんなに嘘がヘタで、よく諜報員が勤まるものだ。
「ほぉ。なるほど……」
だが冷酷な人狼の長は、更に追い討ちをかけた。
「なら、俺がこの女を抱いても、何も異論はないな?」
「!?」
「ルーディ、兄としての情けだ。お前の望みどおり、この女は助けてやる。代わりに、この女が自分から俺に抱かれる姿をしっかり見ろ」
そして、ラヴィの腕を離した。