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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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隊商の護衛少女-4

――数分後。


 地面で芋虫のようにのたうつ男達に、サーフィが丁重に説明する。

「念のために申し上げますが、私は娼婦という職業を蔑っしてはおりません」
「う、うう……」
「娼婦と間違えられた事を怒ったのではなく、貴殿達の言動が余りにも無礼でしたので、このような処置をとらせて頂きました」

 サーフィの剣士としての腕を、ラヴィは目の当たりにできなかった。
 彼女は刀を抜く事すらせず、男達を蹴りや手刀で打ちのめしてしまったからだ。
 酔っていたとはいえ、いずれも荒くれ男といった体格の良い男たちだったのに……。 

 周囲があっけにとられているうちに、サーフィはラヴィの手を引いて、素早くその場から逃げ出す。
 目当ての宿に駆け込むと、サーフィは馬を引き出して乗り、ラヴィを自分の後に乗せた。
 そして、ずっと硬い表情で黙っていたサーフィから、不意に声がかけられた。

「ラヴィさん。その……こういった時、どんな言葉をかけるべきか、教えていただけますでしょうか?」

 後に乗っているため、彼女の表情は見えなかったが、屈強な男達を倒した少女とは思えない、おずおずした弱気な声だった。

「こういった時……?」
「不当な扱いに顔を曇らせてしまった相手を、笑顔にさせたい時です」
「もしかして、私の事……?」
「はい」

 短く率直な返答に、ラヴィが言葉を返せないでいると、また弱気な声が聞えた。

「バーグレイ商会には同年代の女性がおりませんし、私は隊商に来る前は、友人というものを持った事がございません。……貴女と親しくなりたくとも、どうすれば良いのか、よくわからないのです」

 思いがけない言葉に面食らう。
 ラヴィとて内気な性格の上、学校に行かず家庭教師に習っていたから、親しい友人はいなかった。
 サーフィのように強く聡明な美少女なら、皆から愛されて当然だと思っていたのに……。

「私も同じよ。友達を作るのは苦手……でも、貴女だったら、こんな時はどう言われたい?」
「私ですか?」

 しばし、沈黙があった。

「そうですね……嘘の慰めより、正直な意見を申して頂きたいと思います」
「じゃぁ、それで良いと思うわ」

 しがみついているため、サーフィが深く息を吸ったのがわかった。
 涼やかな声が、ラヴィの元へ静かに流れる。

「ラヴィさんの頬には、確かに傷がございますが、貴女の可愛らしさがそれで損なわれたと言う男の目など、節穴も同然でございます。どうぞ、お気になさいませんよう」
「……それは、ものすごく慰めていない?」
「え!?で、ですが、嘘は申しておりません!私の率直な意見です」

 困ったように慌てふためくサーフィがおかしくて、噴出してしまった。

「ありがとう。そうよね、もう気にしない。それと、ラヴィでいいわ。私もサーフィって呼んでいいかしら?」
「はい!宜しくお願いします。ラヴィ」

 相変わらず、サーフィはまっすぐ前を向いたままだが、今度聞えた声は、とても嬉しそうなものだった。
 やがて市街地を抜け、郊外に出た。
 闇を誤魔化していた賑わいが消え、夜が本来の静けさと暗さを取り戻す。
 道も良くないうえに街灯もなく、明かりは月星だけが頼りになる。灯りの消えた人家がまばらにあるだけで、治安も良くないと聞いていた。
 変わりに、市街地ではゆっくりとしか歩かせられなかった馬を、ここなら思う存分走らせる事ができた。
 周囲に警戒を払いながら、サーフィは暗い夜道で見事な手綱さばきをとり、馬を疾走させる。

「貴女ってまるで……」

 サーフィにしがみつきながら、ラヴィは思わず呟く。

「何かおっしゃいましたか?」

 風の中、サーフィが聞き返す。

(物語の王子様みたい)

 そう言ったら失礼だろうかと思いなおし、黙って首を振った。
 それでも、ラヴィが暮らしていた田舎町で一番人気があった男の子より、はるかにサーフィは素敵だった。
 この広い王都にだって、彼女に太刀打ちできる男性を見つけるのは、難しいだろう。

 もちろん、ルーディを除いてだけれども。



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