隊商の護衛少女-3
サーフィに促されるまま、庭の垣根を乗り越え、夜中でも賑やかな繁華街を通り抜けた。
この先に、彼女が馬を預けた宿があるのだという。
夜の街を歩くのは、初めてだった。
ほろ酔いのまわった男達や、客を見送る酒場の女。まだ客を見つけられない娼婦などが、夜の賑わいの源だ。
空の星が地上に降りているのかと思うほど町並みは明るいが、昼とは明らかに違う淫靡で妖しい空気が混じっている。
見慣れない光景に戸惑いつつ、人波を優雅にすり抜けるサーフィの後を、懸命に追った。
「なぁ〜、嬢ちゃんはいくらだ?」
不意に、後から肩を掴まれた。
「きゃぁ!?」
振り向くと、体格の良い男がラヴィを見下ろしていた。酔眼からして、かなり酔っているらしい。
後に、連れらしい男たちが幾人かたむろっていた。
「あっ、あの……すみません。私は……」
「ん〜?ツラが半分しか見えねーぞぉ。全部見せろよぉ」
酒でベタついた手が伸び、顔の半分を隠していた前髪が避けられる。
露になった頬の傷を見ると、男は露骨に顔をしかめた。
「チっ、傷モノかよ。この時間まで残ってる娼婦なんざ、やっぱたかが知れてるなぁ」
連れの男達が、いっせいに笑い声をあげてはやし立てた。
「……」
唇を噛んでラヴィは俯く。
そもそも娼婦じゃないのだし、どう考えても失礼なのはあっちだが、とても情けなくて辛い気分になった。
冷水に浸けられたように頭が冷え、心にも暗くよどんだ冷たい水がしみこむ。
ルーディに優しくされ、うっかり有頂天になっていたけれど、これが普通の反応だ。
「どうかいたしましたか?」
ラヴィが着いてこないのに気付いたらしく、サーフィが駆け戻ってきた。
男装の彼女を見て、男が口笛を吹く。
「おお〜!傷女の相棒かぁ?アンタなら文句なしに買ってやるぜ」
また、あてつけのように前髪を払い除けられ、傷跡を露にされた。
あわてて髪を戻して隠したが、悔しくて悲しくて涙が滲む。
惨めだった。
もともと無きに等しい自信が、更に失われる。
顔をしかめたサーフィを、連れ達がニヤつきながら取り囲む。
「しかしもったいねぇなぁ、美人なのに男のナリなんかしてよぉ」
「コイツも服の下に、見せられねーもんを隠してるかもな!」
「ギャハハ!後でじっくり調べれば良いさ」
この酔っ払いたちは、どうやらこの界隈で有名な鼻つまみ者のようだった。
近くにいた他の酔っ払いや娼婦たちが、顔をしかめてひそひそと遠巻きに囁きあっているが、止めに入ろうとする者はいない。
「申し訳ございませんが、私どもは娼婦ではございませんし、とても急いでおります。どうぞ彼女から手を離して下さいませ」
サーフィが生真面目に返答をし、ペコリと頭を下げた。
そのバカ丁寧な様子が、また酔っ払いたちの爆笑を誘う。
ラヴィの肩を掴んだまま、リーダー格の男がサーフィへもう片手を伸ばした。
「そういうなよ。なんなら、こっちの傷モノもついでに買ってやるからさ」