43 刻印-3
「ちゃんと記憶に残った?」
タオルで汗を拭く太一君の背中に問うた。
「残ったよ。つーかまだ俺の彼女だからね」
そう言って布団に舞い戻り、私を抱いた。
「くっつかないで、暑いよぉー」
「我慢するの。これぐらい。今日しかないんだから」
タオルで拭いた筈の汗が、2人の身体を接着するように湧いてくる。
「ミキちゃんは予想通りのツンデレなんだね」
そう言って私の顔を覗き込む。そこにはいじわるな笑顔が見えた。
「ツンデレ?何それ美味しいの?」
「全力で日本語だけど」
ツンデレの自覚はあったけれど、あえてそれを、一戦交えた直後に言われると、やっぱり恥ずかしいものだ。
「太一君の事、好きだよ、私」
「俺だってミキちゃんの事、大好きだよ」
短いキスを2回、唇に落とした。
「あー、明日が来なければいいのにー」
太一君は私を抱く力を強めてそう言った。
「あー、明日1日有休にしとくんだったー」
仕事めんどくさい、とぼそっと言うと、太一君は笑いながら私の背中をパチンと叩いた。
「そうやって糖分低めの会話に持って行くのが、ミキちゃんのパターンかっ」
笑いをこらえながら太一君の顔を見る。ブッっと吹き出してしまった。
「ケーキは好きだけど、甘い雰囲気が苦手なの」
「その口塞いでやるーっ。」
それから長い長いキスをした。私にとっては十分甘い甘い夜だった。この夜、太一君の彼女でいられて幸せだった。
浅田さん、ごめんなさい。200円が400円に跳ね上がりそうです。200円分は記憶にないので、申告しないという手もあるけれど。
翌朝、空港まで車で送ってもらった。「また東京に行く時、遊んでよ」と言われ「うん」と答えた。
搭乗ゲートをくぐりながら大きく手を振った先には、大きなひまわりの花の様な笑顔があった。
見えなくなってから、それまで瞼の下で待機していた涙が、待ってましたとばかりに零れた。これでまた1つ、清算。