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キャッチ・アンド・リリース
【大人 恋愛小説】

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42 無意識-1

 私の新潟行きは、さいちゃん、小野さん、浅田さんにとっては格好のネタになる。
 「ノッチが新潟に行ってヤって帰ってくる」に200円賭けたのはさいちゃん、小野さん。ヤらないに賭けたのは私と浅田さん。どう考えたって私と浅田さんが有利だ。
 
 
 土曜の午前中に羽田を飛び立ち、お昼前には新潟空港へ到着した。新幹線で行く事も考えたが、電車の乗り換えを考えると酷く億劫だったので、少し高くついたが飛行機をチョイスした。
 空港に着き、太一君にメールをしようと携帯に目をやった瞬間に「ミキちゃん」と声を掛けられた。
 目の前に太一君がいた。江の島で花火をした時より少し髪が短くなったな、と思った。「こんちは」と返した。

 太一君の車に乗り、お昼を食べに出た。
 「離着陸の時は音楽プレイヤーを止めるようにってアナウンス、あるでしょ?で、止めたんだけど、ヘッドフォンしたままでさぁ」
 「うんうん」
 「『お客様音楽、プレイヤーのご使用はー』なんて言われたから、電源切ったプレイヤーを目の前にかざしたら『申し訳ございません』って深々と。飛行機降りる時にも『申し訳ございませんでした』って謝られて、こちらこそ申し訳ない、だったよ」
 「ミキちゃん、ヘッドフォンぐらい外しなよー」

 知らない街並みを進む。太一君は、その穏やかな性格とは対照的に、運転が荒い。そして運転姿勢が悪い。今までは友達の車だったからか、そんな素振りは見せなかった。まぁ、そんなギャップがまた魅力的でもあるのだけれど。

 お昼はお蕎麦屋さんで蕎麦を食べた。その後は、日ごろ太一君がうろうろするお店や街を案内してもらって、あっという間に夕刻になった。
 「お酒とつまめるものでも買って帰ろうか」
 太一君お気に入りのカフェで大きなケーキを食べた事もあり、お腹は膨れていた。
 「うん、お酒とつまみで夕飯代わりになりそう」
 そう言って、太一君のアパートの駐車場に車を停め、近くのコンビニで買い物をした。


 玄関の前の蛍光灯が飛び立つ蝉の様なジジジという音を鳴らした。
 「どうぞ、何もない部屋だけど」
 「お邪魔しますー」

 辺り一面ベッドだ。この部屋はベッドで出来ていると言っても過言ではない。六畳のワンルームにセミダブルのベッドがデンと鎮座ましましている。殆どがベッドだ。
 「仕事帰りに飯済ませて来ると、あとは寝るだけだけだから、いかに良い睡眠が得られるかが俺の使命なんだ」
 そう言ってセミダブルベッドにした理由を説明した。

 「ベッドに腰掛けちゃっていいから」
 クロゼットの前に少しだけ隙間があったので、そこに荷物を置いた。私はベッドと壁の隙間に出来たこの細長い所に寝るんだろうか。うーむ。
 ベランダ側から、脚を折りたたんだテーブルを出してきた。「ちょっと小さいけど」とそのテーブルを組み立てた。その茶色いテーブルは、天然木から切り出したものなのか、木目が綺麗に見えていた。

 少し部屋を見渡すと、ベッドの宮には漫画とスピーカーが置かれている。照明は素敵な雑貨屋さんに売っていそうなペンダントライトで、少し暗いが、寝る事を1番に考えている部屋では、これぐらいの照度で十分なんだろう。暖かなオレンジ色の灯りを落としている。
 壁にはセックスピストルズのポスターが貼ってある。

 「もしかして、この部屋テレビが無い?」
 「ううん、クロゼットに入ってる。殆ど見ないけど」
 台所や風呂場を忙しなく行き来しながら太一君が答える。青いネコ型ロボットの寝床は押入れだったかな。
 「あの、何か手伝えることがあればやるから」
 「いいって、お客さんは座っててよ」
 誰かさんの家で肉じゃがをごちそうになった時の事を思い出してしまった。


 「じゃぁ、乾杯っ」
 「かんぱーいっ」
 ベッドに2人腰掛けてビールで乾杯した。
 「お酒は冷蔵庫に入ってるのと、台所にカルーアとか真露とかあるから適当に作っちゃって」
 「とりあえず酔う前に、明日の打ち合わせでもしようか」
 明日はフェスに行く。ここから1時間程の所に会場がある。
 「駐車場に入るのに並ぶ事を考えると、早めがいいよね」
 そう言って太一君は壁にかかっているシンプルな時計に目をやった。時計は19時を指していた。
 「9時ごろ出れるようにしようか。今から目覚ましかけておこぉっと」
 携帯を手にしてアラームをセットしていたので、「じゃ私も」と同じようにアラームをセットした。

 「あぁそうだ、借りてた漫画」
 立ち上がってクロゼットから漫画を2冊持ってきた。
 「エロ、グロだね。最高に面白かった」
 「でしょ」
 今度は私が立ち上がって、旅行鞄にしまった。

 太一君と話しながらお酒を呑んでいるうちに、2人とも良い感じに酔いが回ってきた。私は座っていたベッドから転げ落ち、太一君はトイレに入ったまま出てこなくなった。
 「おーい、太一ィー、大丈夫かぁー?」
 トイレからは嘔吐する声が漏れてくる。
 「笑えないぞー、出てこい、もっと呑むぞ」
 真っ青な顔をしてトイレから這いずって出てきた太一君に肩を貸し、ベッドへ連れて行く。それでもお酒を飲み続け、私の記憶はそこで途絶えた。久しぶりに、記憶を飛ばした。


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