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キャッチ・アンド・リリース
【大人 恋愛小説】

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27 センチメント-1

 研究棟の前で立ち話をしている小野さんと浅田さんを見つけた。この糞暑いのに、外で立ち話なんて、井戸端ババァか。
 「おはよーございまーす」
 2人そろって「おはよう」と返事をくれる。
 「小野さん、浅田さん、負けですので、私とさいちゃんに各200円ずつ払ってください」
 2人は顔を見合わせて、そして揃って私の顔を見た。
 「ヤったの?」
 「ヤりました。だから私達の勝ち」
 小野さんは手を叩いて爆笑した。
 「アッハハ、さっすがノッチだ。俺の認めたノッチだ。頭あがんねぇよもう。後で払いに行くから」
 その後、頂いた200円を握りしめ、さいちゃんと自販機でサイダーを買って飲みながら、サトルさんの話をした。この糞暑いのに、外で立ち話なんて、井戸端ババァか。


 日付が変わる前に将太が帰宅した。
 「お帰り」
 「ただいま。今日早く終わったから実家に寄ったんだけど」
 実家に寄る暇があるなら早く帰って来いや、と思ったが口には出さなかった。どうやら彼はマザコン属性があるらしい。

 「姉ちゃんとこ、子供が生まれたんだって。これ写真」
 まだ生まれて間もない、これが人間の子供か、と思うようなくしゃくしゃな赤ん坊が写った写真と見せられた。
 「へぇ、おめでたいね」
 うん、と言って写真を鞄にしまう。
 「何かお祝い送らないと、と思ってさ」
 「そうだねぇ」
 私はソファに腰掛けた。将太は鞄を床に置き、隣に腰掛けた。
 「出産祝いって、何が良いんだろう。現金?」
 「身内だから難しいよな。商品券とかでいいんじゃないかなぁ」
 「じゃぁ商品券、近々買っておくよ」
 暇な時間が多い私が、買い物をかって出た。

 「もう1回写真見せてよ」
 あぁ、と言って鞄から写真を取り出す。
 「へぇ。言っちゃ悪いけど、赤ちゃんって可愛くないよね。自分の子供なら可愛いのかなぁ?」
 将太は返事に困った様子だったが、苦笑いしながら答えた。
 「まぁ自分の腹から生まれたらそりゃ可愛いんじゃないの」
 「将太は子供、欲しい?」
 「欲しいけど今はいらない」
 そりゃそうだ、今みたいに派手に散財できなくなるもの。ネットオークションで、プレミアが付くフィギュアを買ったりしているのを私は知っている。
 「ミキは?」
 「私は子供好きじゃないもん」
 ふーん、と答え、またいつもの様に、各々が好きな事をやり始める。あぁ、これがいつまで続くのだろう。幸せではない新婚生活。幸せではない夫婦生活。
 幸せってどこかその辺に転がってないかなぁ。靴の裏にくっついてた、なんて事ないのかな。やり場のない気持ちを、ブログに吐露する。


 結婚式を挙げようと言ったのは将太だった。家族も誰も呼ばず、2人で、新婚旅行も兼ねて。
 急ではあったが、旅行社に問い合わせると、偶然希望する日に空きがあったので、サイパン島で挙式兼新婚旅行をする事になった。親はきっと子供の花嫁姿を見たかったんだと思うが、「海外なんてお金かかるから行かない」と端から行く気が無い素振りを見せた。
 パスポートを持っていなかったので、急いで作りに行き、旅行に間に合わせた。

 挙式は勿論ギャラリーなんていなかったが、神父さん、ホテルの従業員、カメラマンさん、メイクさんが総出で盛り上げてくれたお蔭で、感動的な物になった。祝福の歓声には涙腺が崩壊した。
 真っ白な砂浜を、真っ白なウエディングドレスで歩く。海は空の色をそのまま写している。いつか見た、群青色の海と空を思い出したが、記憶をかき消した。

 旅行の最中は、買い物や散歩、名所めぐりをし、それなりに楽しんだ。久方ぶりのセックスもした。幸せかと問われれば、幸せだと答えられる旅行になった。職場に、実家に、タキに、レイちゃんに、沢山のお土産を抱えて帰国した。

 帰国して待っていたのは、またいつもの生活だった。決して幸せではない、生活。
 
 
 「これ、お土産、食べてくださーい」
 職場の中央にあるテーブルに、マカダミアナッツチョコレートの箱をでんと置いた。
 あちこちから旅行の感想やら結婚式の感想やらを訊ねられたので、適当に答え、席に戻る。

 「やっぱビキニ着たの?」
 さいちゃんがにやけた顔して言うので、頭を1発叩いてやった。
 イテェと呟きながら頭を擦っている。
 「着たけど写真は残ってないよ」
 「ノッチは背が高いから、ビキニが似合うだろうなって、小野さん達と話してたんだ」
 「あんた達はヒトの留守中に何つー話をしてるのっ。年中盛りがついてる雄犬か?君らは」

 まぁ、大方予想はついたが、同じ質問を小野・浅田両氏から聞かされたのは、その日の午後だった。
 「日本に銃刀法がなかったら、今頃先輩方、ハチの巣ですよ」
 そう言っておいた。


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