26 ギブス-1
本格的な夏に入った。梅雨明け宣言が出され、連日強烈な日差しの中、自転車を漕いで通勤している。あぁ、日焼け止めぐらい塗らないと。そう思いつつ、面倒なので日陰を選んでフラフラ走行している。
職場には科学機器が沢山置いてある。排熱が高い機械も、熱に弱い機械もあるので、夏場はガンガン冷房をかけて室温を一定に保つ。冷え症の私には少し辛い実験室。そんな時は30度の培養室で少し温まる(37度だと流石に暑い)。
今日もそんな風に暖を取っていると、白衣のポケットに入れてあった携帯が震えた。メールの着信を告げる、短いものだった。
サトルさんからだ――。
携帯を手に培養室から走り出て、そのまま女子トイレに向かい、個室に入る。そしてメールを開く。
『こんにちは。毎日暑いけど、身体壊していないかい?
大きな仕事が終わって少し落ち着いたので、良かったら遊びに来ないかい?最近は料理をしてないから何もおもてなし出来ないけど、近況を聞きたいなと思っているよ。
では、返信待っています。』
メールを読んでいる間に誰かがトイレに入り、出て、電気を消された。私、居ますけど。
「例の彼からメールが来た」
さいちゃんに伝えると、ニヤリと笑うさいちゃんの顔が怖い。
「ついに会うの?」
「うん、会う。ヤるかどうかは分からないけどね」
居室に誰もいないのを良い事に、雑談。まぁ、実験の合間だから誰も文句は言わないのだけれど。
「俺は、ノッチは出来る子だと思ってる。なのでヤるに200円」
「何その理由。褒められてないし。でも私もヤるに200円」
「それじゃ賭けにならないじゃん」
「あ、そっか。じゃ小野さんと浅田さんにも賭けてもらうか」
その後、小野さんと浅田さんの職場へ赴き、それぞれに掛けてもらったが、2人とも「ヤらないに200円」だった。
小野さんは「何だかんだ言ってもノッチは理性を保つ」だそうで、浅田さんは「俺の中のノッチはそんな奴に踊らされるような女ではない」だそうだ。
本当に愉快な人達だ。彼らと雑談するために仕事に来ているようなものだと、最近、思うのだった。