24 シンクロ-1
さっさと仕事を終わらせて、「小岩井」と書かれた表札の玄関を開ける。勿論誰もいない。鞄をぽいっとその辺に投げ、お尻のポケットから携帯を取り出す。メールが2件。
2件目の名前を見て驚いた。サトルさんからだった。すぐに開く。
『やあ、元気にしていますか?
俺は新しい仕事の都合で東京に越してきました。高円寺です。前に住んでいたアパートに比べると、段違いの広さですが、さすがに1人では少し淋しいです。
ミキ嬢は何か変わりはありましたか?新しい仕事はどうだい?
何だかメールもろくに送らないままで、1年も経ってしまったね。気が向いたらメールください。』
サトルさん、東京にいるんだ――。1件目の知らないアドレスからのメールは開封せず、さっさと返信メールを送った。
『こんにちは。だいぶ久方ぶりになりますね。仕事を初めて2年目になりますが、結構自由な雰囲気の仕事場で、のびのび仕事をしています。
サトルさんは東京にいるんですね。会おうと思えば会える距離ですね。新しい家に是非、お伺いしたいものです。
だんだん暑くなってきましたね。エアコンのかけ過ぎで体調を崩さないように、気を付けてくださいね。それでは。』
サトルさんが東京にいる。逢いたい。そればかりが頭を占拠していた。
広い家で1人で仕事をしてるんだろうか。彼女が出入りしているんだろうか。彼女いるんだろうか。私は逢いに行ってもいいんだろうか。
暫くして落ち着いたところで、もう1件のメールを開いた。
『原田です。電話を借りた原田です。先日のお礼にご飯でも食べに行きませんか?あと、映画の趣味が合いそうだったから、おすすめの映画、観に行かない?という訳でメールしてみました』
この人は何遍お礼をしたら気が済むんだろう、と思わず吹き出してしまった。
わざわざお礼の為にこちらに来る訳もないので、きっと友達の所に行くついでにでも、って事なんだろう。一応誘いには乗っておくことにしよう。
『メールありがとう。もうお礼はいいと言ったのに。でも映画ならいいですよ。今度こちらに来る時があれば事前に連絡ください。予定合わせますので。では』
水曜日の定例会。私は「好きだった人から連絡が来た」というネタを出した。
「好きで好きで、身体の関係もあったんだけど、好きって言えないまま付き合いもしなかったんですけどね。今東京に住んでるって連絡が来て」
浅田さんが机をバシッっと叩いて言った。
「それは浮気じゃなくて不倫になるぞ。ノッチは結婚したんだからな」
「まだ誰もヤるなんて言ってないじゃないすか」
苦笑する私を浅田さんはキッと睨んだ。ひえぇ、怖い。絶対ドS。
「まぁでも、そういう関係だったんだったら、会ったらヤるだろうな」
さいちゃんが、さらりと言った。さいちゃん自身、人妻と一晩限りの関係を持ったり、本当は男3人兄弟なのに「妹が5人いる」等と言い、平気で5股も掛ける男なのだ。社内でも浮名を流した事がある。イケメンは大変だ。
「ノッチはヤりたいの?その人と」
小野さんは興味津々な顔を隠しきれないという感じでニヤついている。
「何でヤる事前提で話しが進んでるんですかね?まぁでもヤりたいですね。大好きだし、凄い良いんですよ」
何が良いんだよっ、と笑いに包まれたが、良いと言ったら、そういう事だ。小野さんに至っては「俺、ムラムラしてきた」と暴走。
保守派の浅田さんは私を引き留めようと必死だ。アンタは私の親父か。
「旦那にバレたらどうすんの?」
「バレないようにやります」
「いや、万が一バレたらまずいでしょう」
「万が一にもバレません。私が誰に会ってようが過干渉しない約束なんで」
さすがノッチだなぁ、と小野さんと浅田さんが声をそろえて言ったので爆笑した。
「さいちゃんの方がよっぽど悪どい事やってますよ、五股ですよ?股間噛み千切られてしまえって感じですよ」
そこからはさいちゃんの話に移った。