21 大輪-3
帰宅したのは日付が変わる頃だった。すぐにシャワーを浴び、冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出し、コップに注いだ。
『私が男友達と会ったりライブに行ったりする事にいちいち過剰に干渉しないでね。』
将太にはそう言ってある。今日ひまわり君もとい原田太一君と知り合った事を話しても、「ふーん」で終わるのだろう。束縛というものは、されると面倒だが、されないと寂しいものだ。麦茶をごくごくと飲みながら、そんな事を考える。
明日は休みだし、ちょっとテレビでも観てから寝るかと思い、リモコンを探していると、携帯が鳴った。知らない番号からだった。
「もしもし?」
『あ、さっきの、太一です。ひまわりの』
「あぁ、ひまわり君」
リモコン探しを諦め、布団の上にでんと座った。
『ひまわり君ってやめてよ、太一でいいよ。遅くにごめんね、寝てた?』
「寝てないよ。して太一君、誰の電話を使っているんだい?」
『友達の携帯。とりあえず今日のお礼は今日のうちにしておこうと思って』
何て律儀なんだ。というかお礼なら渋谷で何度も言われたと記憶している。同じ動作を繰り返す、からくり人形を思い出す。
「わざわざどうも」
『新潟に戻ったら、携帯に電話してもいい?』
この人、結構厚かましいかも。でも憎めない感じがして、ふふっと顔がほころんでしまった。
「いいけど、電話よりはメールの方が助かる。仕事もあるし、彼氏もいるし」
「あ、そうか。じゃぁメールアドレス教えてくれる?」
私が言うアドレスを、おそらくは彼の焦げ茶色の手帳に書き込んでいるんだろう。復唱した後、彼は言った。
『じゃぁ新潟に帰ったらメールするから』
ひまわりの様な笑顔が携帯のあちら側に一瞬、見えたような気がした。厚かましく笑うひまわり。嫌いじゃない。私にはない、底抜けな明るさがそこには垣間見えた。