8 バクチ-1
サトルさんからの連絡は2週間経ってもなかった。
その代り、意外な人から連絡が来た。テツだった。
テツは、ユウの親友で、私の家のすぐ近くに住んでいるので、時々2人して公園のベンチでお酒を飲んだりした。
そのテツから電話がきたのは、ベッドにごろ寝しながら今までに来たサトルさんからの携帯メールを読み返している最中だった。
「ミキちゃん?」
「テツ君かい、久しぶりだねぇ」
「電話出るの、早っ。今いい?」
寂しさを紛らわすために付けていたテレビの、電源を消した。
「どぞ」
「ユウが、会いたいって言ってるんだけど、どう?」
突然の話に狼狽えてしまって声が裏返った。
「え――、何を今更。だって彼女いるでしょうが」
会いたい理由は何だろう、返したいものでもあるんだろうか。貸してる物なんてない筈。
「いや、その辺はユウから聞いてよ。とにかく会いたいんだって。
今時間あったら、ユウに言っておくから、ユウの家まで行ってくれないかなぁ?」
「話がある方から出向くってのが定石じゃんかっ」
テツに怒っても仕方がないことなのだろうが、よく呑み込めないこの状況に対し、何となくイライラしてしまった。テツは電話の向こうでため息を吐いた。
「お前ん家の前に車停めておくのを、ご両親に見られたくないんだとさ」
うちの母はユウの車を何度も見たことがあり、私がユウに振られてウサギになる姿も見ているので、ユウの車を見かけたらボンネットに漬物石でも落としかねない。バイオレンス・マザー。
「じゃぁ迎えに来いって言って。今なら両親いないから、さっさと」
「おぉ、怖いですなぁ。その言い方でそのままに伝えるよ」
「頼んだ。伝令ありがとう」
何の話があるのか、皆目見当もつかなかった。ただ、電話やメールで済ませればいいものを、わざわざ呼びつけるとなると、何か重要な話なんだろうという事は想像に難くない。