4 傷跡-3
我が家の小さなテーブルで、お酒を飲みながら沢山の話をした。
ユウと付き合い始めるきっかけや、成人式の日の事、学校の事、音楽の事。田口の恋愛に関しては、不思議と話題に上らなかった。本人曰く「ネタになるような恋愛経験が無い」らしい。
途中でお酒が無くなり、二人で歩いてコンビニまでお酒を買い足しに行った。
お酒に強い田口は酔っていない様子だったが、私は少し酔いが回って気分が良かった。春風が、心地よく感じた。八割が葉になってしまった桜の木は、最後のひと踏ん張りで花びらを散らしていた。もうすぐ只の「緑の木」になる。私の中の「ユウ」も、早いとこ散ってくれたらいい。
家に戻り、再びお酒を飲み始めた。私はどんどん気分が良くなり、そのうち横になりながらおつまみを食べ、しまいには横にいた田口に膝枕をしてもらった。
実際は記憶が飛ぶほど酔っていはいなかったが、ちょっと田口を試してみたくなったのだ。私の事、襲うかな。「俺、好きな人いるから」って拒絶されたり?
だけど田口はただただ、私の空っぽな頭をその膝に受け入れてくれるだけだった。頭を、撫でたり叩いたりしてくれた。
どんだけ優しいんだよ、バカ。私に魅力が全くないのか?悲しい現実だ。
「田口くん、ミキちゃんの事、絶対好きだよ。絶対」
週末に起きた事柄を話すとレイちゃんはそう主張するのだった。レイちゃんは恋愛の「綺麗な面」だけを見る傾向にある。素直なのだ。
「いやぁ、それはないよ。男女の友情ってやつだよ」
「そんなものは想像の産物だよ、ミキちゃん」
「なにそれ、天空の城?隣に越してきた男がトトロだったら萌えないなあ」
髪をハーフアップにするレイちゃんの手元を、私はじっと見ていた。爪が綺麗に整えられている。女性らしい。私がユウと別れる少し前に、レイちゃんも彼氏と別れている。
「確かに、世の中的には『天空の城』だったり『フィクションです』なんだけどさ、実際に田口とはノンフィクションなんだよ。男女の友情」
綺麗にアイロン掛けされた白衣に、レイちゃんが袖を通すと、スッと音がする。
「そうだね、はいはい、ノンフィクションだといいね。ほら、次の時限、実習だから白衣だよ」
くしゃっとして薄汚れた白衣にズブズブと袖を通し、袖先をクルクルとまくった。
レイちゃんの白衣の音と、違う。ここが女らしさの境目か。手首に通してあった黒いヘアゴムでロングヘアを一束に結って、教室を出た。