ねこ の おやこ-6
「ねこ……ちゃん……」
まりちゃんは、もう動くこともできないみたいだ。
でもだいじょうぶ。ぼくが替わってあげるから。
ぼくは最後に一声鳴いて、ママときょうだいたちにサヨナラをいった。
それから、白く輝くお月さまに向かって思い切りさけぶ。
お月さま。
ぼくのからだを、まりちゃんにあげてください。
ぼくがまりちゃんの痛みをぜんぶ、もらうから。
ぼくのからだと、ぼくのいのちを、まりちゃんに。
そして、お月さまから目もくらむような、まぶしい光が舞い降りる。
それはまるで銀色に光り輝く魔法の粉のように、ぼくたちをつつみこむ。
ぼくはいつのまにかまりちゃんの部屋の中にいた。
ああ、痛い、痛い。からだのあちこちが焼けるように痛い。
そして、ぼくだったはずの、あの窓のむこうのからだには、きっとまりちゃんがいる。
ねこたちは、大きく鳴いた。
お月さま。ありがとう。
まりちゃんはもう自由になれた。ぼくのママはたたいたりしないよ。
よかったね、まりちゃん。よかったね。
そして子猫の目の前に、永遠の暗闇が訪れる。
かわいそうな人間の子供には、ねことしての未来が開かれた。
満月の夜の、誰も知らない物語。
(おわり)