ねこ の おやこ-4
今日もまた、ぼくはママのいうことを聞かずに赤い屋根の家にいる。
塀のすきまをくぐりぬけ、まりちゃんをさがして庭をすいすい駆け抜ける。
まりちゃん、まりちゃん。
どこにいるの?
ぼくは声をあげながら、庭の木をよじ登ったり、壁から屋根に上がったりしてみたけれど、
まりちゃんの姿がどこにも見えない。
うしろからぼくを追いかけてきたママがぼくを呼ぶ。
ママ、どうしたの?
ママはひょいと壁から2階の窓へジャンプした。
ぼくも真似してついていく。
2階の窓からなかをのぞくと、まりちゃんがいた。
おおきな男の人と、女の人に、まりちゃんは叩かれていた。
何度も何度も叩かれたのか、洋服がびりびりにやぶれてる。
まりちゃんのかわいい顔は赤く大きくはれている。
いつもぼくを呼んでくれるあの小さなくちから、赤いすじが流れている。
からだじゅうに変ないろのあざがある。
ぼくはとってもこわくなって、ママを見た。
ねえ、ママ。まりちゃんはどうなっちゃうの?
まりちゃんが大変なことになってるよ?
ママはぼくのかおをぺろぺろとなめながら、静かに言った。
もう今夜であの子はダメかもしれないね。
さあ、おまえももうこの家に来るのはやめるんだよ。
きっと、もうまりちゃんには会えないから。
そんなの、いやだよ。
まりちゃんは、ぼくのともだちなのに。
ぼくは思い切り窓ガラスをひっかいた。人間たちがこっちを見る。
ほんの一瞬、まりちゃんがぼくを見た。
くずれたような、赤い目で。
だいじょうぶ。きっとぼくが助けてあげる。
月夜の魔法で、助けてあげる。