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恋なんて知らない
【初恋 恋愛小説】

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恋しくてたまらない-1

自分がこんなに涙を流せるなんて知らなかった。

なんでこんなに泣いているのか分からなかったけど、先生の顔を思い出したら知らぬ間に涙が出ていた。

好きだから、涙が出る。
理屈じゃない。
でも、私はひどく自分勝手だった。

私は初めて恋というものを知って、目が腫れて頬が乾くころには、少しずつ冷静になった。

困らせたのは私の方だ。
先生に自分の気持ちを何一つ伝えてない。

言葉にして、拒否されるのが怖かった。
自分でも曖昧なこの気持ちを、一時的だと思われたりはぐらかされたりするのが怖かった。
一歩踏み出して、女として評価されることが怖かった。
生ぬるくて居心地のいい関係のまま、ずっといられると思っていたんだ。

生徒と教師。
私がその関係を壊したのに、思いも伝えないなんて卑怯だ。

言いたい。
ちゃんと、私の気持ち…
拒否されてもいい。
関係が変わってしまってもいい。
先生が誰を好きでも、私が先生を好きな気持ちは、消えてしまうことはないから。


***


“す・き・で・す”

この四文字だけ言えれば、たぶん大丈夫。
できれば誤解のないように色々と付け足したいんだけど…

先生が好きです。
先生のことが好きです。
一人の男性として好きになりました。
一人の先生が好きです…あれ?


放課後、ぶつぶつ言いながら数学準備室に向かう。


「こわー、何この子」

突然、後ろから声がして振り返ると、伊藤由香さんが怪訝な顔で立っていた。

「あ、こんにちは。」

「はいはい、どーも。
準備室行くの?」

「あ、そう。」

「ふーん。」

どう説明しようかと慌てた私に、伊藤さんはそれ以外は聞かずにいてくれた。

隣にいる伊藤さんはとても堂々としていて強く見えたけど、当然悩むことも涙を流すこともあるんだろうなと思った。

「伊藤さん、」

「んー?」

「伊藤さんって優しいよね。」

「は?んなわけないじゃん。」

馬鹿じゃないの、とつぶやく伊藤さんもなんだか素敵だと思った。

伊藤さんの優しさの裏には、きっと彼女の弱さや痛みがあるんだろう。



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