恋しくてたまらない-6
「菜美子さんとは、恋人だったんですか?」
「ここに来る時だけ、恋人になってくれと頼まれた。
あいつはひどく悩んで思いつめて…
…いや、そんなの、言い訳か。」
先生はまた目を伏せた。
「俺も、寂しそうなあいつに惹かれていた。」
少しつらそうな、先生の声。
「最初に担当したクラスの生徒で、一番慕ってくれて、嬉しかったんだ。」
先生が今も罪悪感に苛まれているのが分かった。
菜美子さんのことを思っているんだろう。
私は、先生の頬にそっとキスをした。
先生ははっとしたように顔を上げる。
「悪い、取り乱したな。」
「いえ、私…先生のことが聞けて嬉しいです。
先生は私だから、こんな風に話してくれるんでしょう?」
先生は私のことを少し驚いたように見て、そのあと強く抱きしめた。
「…私も生徒なんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないな。」
言葉とは裏腹に、その手は優しく私の体を包む。
「ごめんな、生徒なのに、好きになって。」
「私も、」
「うん。」
「先生なのに、好きになってしまってごめんなさい。」
「ああ。だから、今日だけ。」
先生はわたしのおでこにキスをした。
キスの一つ一つで、ほわん、と花が咲いたみたいな気持ちになる。
「おかしい。」
私がつい笑うと、先生が「びっくりした」と言った。
「笑ったところ、初めて見た。」
「だって、」
「うん?」
「だって、私幸せなんです。」
「俺も。」
もっとキスしてほしいな、と思って先生を見ると、何も言っていないのに「いいよ」と言ってもう一度キスをしてくれた。