White Chocolate TIme-5
しばらく彼らは目の前のごちそうを頬張りながら談笑した。こんなに豪華で満ち足りた誕生日は初めてだ、とマユミは思った。隣に愛する男性、向かいには自分たちの最も信頼できる理解者の男性。自分が生きていること、そしてこの二人に守られているという実感がマユミの心を熱くした。
「あれ、どうしたんや、マーユ。」
マユミは滲んだ涙を拭いながら言った。「嬉しいの。あたし、この世でケン兄とケニーの二人に出会えたことが、とっても嬉しいの。」
「おおげさや、マーユ。」
コンコン。ドアがノックされた。
「入ってもええかー?ケネス。」野太い女性の声だった。
「ええで、お母ちゃん。」
ドアを開けて入ってきたのは小太りの中年女性。そう、大阪生まれのケネスの母親シヅ子だった。「持って来たで、特製バースデーケーキや!」
そのケーキがテーブルの中央に据えられた。大きな二段重ね。ホワイトチョコレートとミルクチョコレートが混ざったマーブル模様のクリームででコーティングされ、一段目の周辺にびっしりと赤くて大きな苺。全体にはシュガーパウダーが雪のように振りかけられている。18という数字のろうそくがその頂点に立てられていた。
「わあ!」マユミが大声を上げた。「もう死んでもいい・・・。」
「マユミ、チョコレート大好きや言うてたから、ふんだんに使こて作ってあるんやで。」シヅ子が胸を張って言った。「これはおまけや。マユミだけにな。」彼女はウィンクをして背中に隠していた薔薇の花束をマユミに差し出した。
「ありがとうございます、お母さん。」ケンジが感激して言った。
「そやけど、マユミ、何度見てもほんまかわいらしいな。うちのケネスのお気に入りやっちゅうのもわかるな。ええシュミしてるで、ケネス。」
「な、何いうてんねん、お母ちゃん。余計なこと言わんといて。」
「何やの。あんた言うてたやないの。マーユみたいな女のコと付き合えたら幸せやのになー、って。」
「あほ!もうええ!早よ出てって!」ケネスは赤くなって叫んだ。
「わかったわ。そんなやかまし言わんでもええやないの。ほな、ケンジ、マユミ、おめでとうさん。いつまでも仲良うな。」
シヅ子は言うだけ言って立ち上がり、テーブルを離れドアを開けた。「明日の朝8時まではもう来いへんよってにな。ゆっくりしてってな。」そしてドアを閉めた。
ケンジとマユミは立ち上がってシヅ子を見送った。
「ケニー、ホントにありがとう。家族みんなで俺たちの誕生日を祝ってくれて・・・・。」
「わいも、ケンジとマーユに出会えて、ほんま幸せや。」
「そう言えばさ、」マユミが言った。「今日ペンダントを買ったアクセサリー屋さんで、占いの紙、もらったんだ。」マユミはバッグをごそごそとあさって、小さな紙を取り出した。
「占い?」ケネスが聞いた。
「そ。血液型の。」
「へえ。」
「ケネスはAB型だったよね。」
「そうや。よう覚えてたな。」
「あのね、AB型、『誠実な気持ちで待てば、必ず願いは叶う。諦めるな。』だって。」
「わいはいつも誠実やで。大きなお世話やっちゅうねん。」三人は笑った。「で、マーユたちはどやねん。」
「O型はね、『変化を受け入れ、心を広く持てば、未来は開ける。』」
「なんやそれ?」
ケンジが口を開いた。「確かに俺たち、これから周りがいろいろと変化していくんだろうな・・・。」
「高校卒業も間近やしな、二人とも・・・。」
三人の間に、少しだけ沈黙が流れた。しかしすぐにマユミが元気よく言った「ケーキ食べよっ!」
「そやな。ほたら、切り分けるで。」
「大きくて食べきれないよー。」
「一生分はあるな。」ケンジが言った。
「大げさや、ケンジ。」三人はまた笑った。