White Chocolate TIme-3
「あんな恥ずかしい思いをしたのは生まれて初めてだ・・・。」
「ありがとうね、ケン兄。」マユミはまたケンジの腕に自分の腕をからませた。
「よしっ。今度は俺の番。」
「何がいいの?ケン兄。」
「俺も決めてるんだ。買って欲しいモノ。」
「何?何?」
「行こうぜ、マユ。」
ケンジはマユミと腕を組み、寄り添って歩いた。「あたし、冬って好き。」
「どうして?」
「こうして好きな人とくっついて歩けるじゃん。」
「お前いつでもくっつくだろ。夏だろうと春だろうと。」そう言いながらケンジは、左手でマユミの身体を抱き寄せ、お互いにぴったり身体をくっつけ合って歩いた。
やがて二人は街の中にある一軒のアクセサリーの店の前に立った。
「ここだ。」
「わあ、お洒落な店だね。ケン兄、いつの間に?」
「結構前に。何となく入ってみて、見つけたんだ。まだあればいいけど・・。」ケンジはそう言ってマユミを連れて店の中に入っていった。
「えーと・・・・。」ガラスのショーケースの中をのぞき込みながらケンジはゆっくりと歩いた。「確かこのあたりに・・・。あった!」
「え?どれどれ?」マユミがケンジの指さすガラスの奥に目をやった。
「これください。」ケンジが威勢よく言った。
それはペアのペンダントだった。銀の鎖の先に、一つは弓をつがえたケイロン、もう一つは矢、それぞれ小さな白いガラス玉が散りばめられている。よく見ると、所々に少し大きな碧いガラス玉がはめ込んである。
「きれい・・・。」
「だろ?」
「これって、ひょっとして射手座がデザイン?」
「その通り。この二つを重ねると、ちゃんと射手座の星の並びになるんだ。」
「すごいすごい!ケン兄って意外とロマンチスト。」
「何だよ『意外と』って。」
「ごめんごめん、『思った通り』ロマンチスト。」
「プレゼントですか?」若い男性店員が二人に話しかけた。
「はい。そうです。」マユミが屈託なく応えた。
「お二人、おそろいでつけられるんですね?」
「はい。そうです。」
「恋人同士でいらっしゃいますか?」
「はいっ。そうです。」
「しばらくお待ち下さいね。」
「はいっ。」
店員がその二つのペンダントとマユミに渡されたお金を持って店の奥に消えた。
「マユー。」
「なあに?」
「お前、なんだよ、そのテンション。」
「だって、めっちゃ嬉しいんだもん。」マユミはその場で飛び跳ねた。
「『めっちゃ』?お前ケニーの言い回しが移ってるぞ。」
「ほんとだー。」
「お待ちどおさまでした。」店員が丁寧にラッピングされたペンダントを持ってやって来た。
二人は店を出た。店の前でケンジはペンダントの包みを開け、ケイロンの矢の方をマユミに手渡した。マユミは満面の笑顔でそれを受け取った。「ケン兄、つけて。」そうしてケンジにそれを渡し直すと後ろを向いた。ケンジはマユミの首に鎖を回した。つけ終わったケンジは同じようにマユミに背を向けた。「俺も。」
通りの角にある喫茶店で、ケンジは椅子を引いてマユミを座らせた後、テーブルの向かいに自分も腰掛けた。
「こうやって向かい合ってると、」ケンジが穏やかに言った。「本当に恋人同士みたいだな、マユ。」
「恋人同士じゃん。」
「恋人同士って言うのか?俺たち。その前に兄妹だろ。」
「でも、やってることは恋人同士じゃん。」
「ま、そりゃそうだけど・・・。」ケンジはメニューに目を通しながら言った。「マユ、ごめん、ちょっとプレゼント奮発しすぎちゃって、あんまりお金が残ってないんだ。サンドイッチセットでいいか?」
「うん。いいよ。」
結局、二人が母親からもらった小遣いを合わせても、ペアのショーツとペンダントを買ったことで大赤字になっていたのだった。
「あたしたちも、もう18になったんだね。」
「そうだな。」
「ケン兄ってさ、東京の大学に行くんでしょ?」
「あ、ああ。」
「そこで、水泳の技術に磨きをかけて、将来はどうするの?」
「俺、まだあんまりしっかり考えてないんだ。大学へも学校推薦で行くわけだし。」
「どうしたの?急に寂しそうに・・・・。」
「だって、お前と離れてしまうんだぞ、これが寂しくなくて何なんだ。」
「あたし、我慢する。」マユミはケンジの目を見つめた。「ケン兄といつも会えなくても我慢する。だから、」
「だから?」
「会った時は、しっかりかわいがってね。」
「もちろんだ。マユ。俺にはお前しかいない。」
「うん。わかってる。」
ケンジとマユミは、それからさして会話もせず、運ばれたサンドイッチを口にした。