最終話 〜与えられた罰〜-4
ふいに視界が開けた。うっそうと生い茂る木々も、背の高い草も、そこだけは綺麗に取り除かれて広いスペースが確保されている。湖をぐるりと囲む崖の途中。あの、昼間に休憩所として使っていたコース途中の場所。斎藤とエリナが立つ崖の尖端ぎりぎりの場所からは、月の光をうけてきらきらと輝く、美しい湖面が見えているはずだ。みずきは少し離れた場所から、ふたりの様子を見ていた。
斎藤がエリナの両肩に手を置いて自分の方に向き直らせた。エリナは顔を上げ、真っ直ぐに斎藤の顔を見つめている。ときおり吹き抜ける風が、ひらひらとエリナのスカートの裾をひるがえす。虫の声が止み、あたりが静寂に包まれた。
斎藤の声が、みずきのいるところまでよく聞こえた。
「ちょっと遠かったかな……ここ、すげえ綺麗だから、どうしてもエリナに見せたくて」
「ありがとう、本当に綺麗ね」
「エリナ。俺、ほんとに卒業してからまた会えるなんて思ってなくて……それで、あの、つきあってもらえるなんて夢みたいで、この1カ月すげえ楽しかったんだ」
「そう。よかったわ」
やや興奮気味の斎藤の声に反して、エリナの声は驚くほど冷静だった。斎藤の声は続いた。
「あの、俺、1カ月しかまだつきあってなくて、何言ってんだって思うかもしれないけど、えっと、その」
「なあに?」
「エリナ、俺とずっと一緒にいて欲しいんだ。あの……結婚、とか、考えてくれないかな」
「斎藤くん……」
返事を待たずに、斎藤がエリナの唇にキスをするのが見えた。
視界がぐにゃりと曲がった気がした。
……どうして? わたし、こんなに一樹くんのこと大好きなのに、どうしてそんな女に? なんのためにいままで我慢して来たの? もう一樹くんはわたしのところには戻ってこないの? 思考が渦を巻いて錯綜する。制御がきかなくなる。もういろんなことがわからなくなって、みずきは立ち上がり、大声で叫んだ。
「だめよ、そんなの、絶対に嫌! か、一樹くんはわたしのものなんだから!! 誰にも渡さないんだから!!」
驚いたように斎藤とエリナが振り返る。頭で考えるよりも先に体が動いていた。もつれる足でふたりのところへ駆け寄り、エリナを押しのけて斎藤の腕に抱きついた。ずっと焦がれていた、大好きな人の腕に。
「み、みずき? おまえ、どうしてこんなとこに……」
離れようとする斎藤の腕に必死でしがみついた。もう離れたくない。ずっと一緒にいたい。だってわたしたち、何年も一緒に仲良くやってきたじゃない。
「一樹くん、ねえ、一樹くんが好きなのはこんな女じゃないでしょ? だまされてるだけなのよ、わたしのほうがずっと一樹くんに好かれてるはずなんだもん、ねえ、そうでしょ?」
「何言ってんだよ……みずき、もう何度も言っただろ?俺はみずきのことが好きだったことなんて、ただの一度も無いって」