嫉妬と欲望と-6
食事は1時間の交代制で、20時には追い出されるように食堂を出て、全員がいったんロビーに集まった。お酒も適度に入り、上機嫌な仲間たちは相変わらず馬鹿騒ぎを続けている。それを割って入るように館内放送が流れた。
『それでは温泉に行かれるお客様、10分後に玄関前のバスが発車いたします。ご利用の方はお集まりください、繰り返しご案内いたします……』
それを合図にばらばらと皆が動き始めた。部屋に戻るメンバーもいれば、直接バスへ向かおうとするメンバーもいた。斎藤は明日の相談なのか、男性陣と輪になって何事かをロビーの隅で話し合っている。エリナに向かって斎藤が両手を合わせ、謝る仕草をした。
「エリナ!ごめん、すぐに終わるから部屋で待っててくれないか」
「あはは、エリナちゃんごめんねー!もう斎藤、さっきから明日の話よりエリナちゃんのノロケばっかりだよ」
「ほんとにな!こりゃ今夜はふたりとも寝不足まちがいなしだなぁ」
男性陣から卑猥な言葉とひやかしの声が飛ぶ。エリナは微笑んでそれを受け流し、斎藤から部屋の鍵を受け取った。ロビーから離れて階段を上がろうとしたところで、隣に誰かが駆けよってきた。
「僕もいまから部屋に戻るところなんだ」
トオルがニッと悪戯っぽく笑う。
「そう……ねえ、あの同じ部屋の女の子はどうしたの?」
「マミなら、みずきと一緒に大塚の車で温泉に行くってさ。あいつ、もうかなりヤバいよ。首筋も肩も、骨が浮きまくってる。みずきと大塚に相当やられたらしい。部屋でさ、夕方ちょっと一緒にいたんだけど、無理やりウリとかやらされてるって泣いたんだ。もう嫌なの、助けてって」
「それで、何て答えたの?」
「かわいそうに、僕は何もできないけど、ずっと君のことが好きな気持ちは変わらないよって」
薄暗い階段をギシギシと鳴らしながら歩く。トオルのひそやかな声は少しも真実味が無く、エリナは思わず笑った。
「嘘つきね」
「君に言われたくはないよ」
トオルも小さくと笑った。3階のフロアはもうほとんどのメンバーが温泉に向かったのか、話し声も物音も聞こえず静かだった。エリナが部屋の前で鍵を開けようとしたとき、トオルの手がそれを止めた。