嫉妬と欲望と-5
乾杯の合図の後、夕食のテーブルにはこれでもかというほどたくさんの料理が運ばれてきた。大皿に盛られたサラダ、こんがりと良い色に揚げられた鶏の唐揚げ、綺麗なオレンジ色をしたかぼちゃのスープ、肉団子の甘酢あんかけ、黄色が鮮やかな卵焼き……次々と運ばれてくる料理は、男性陣の旺盛な食欲でたいらげられていく。
翌日のレースで皆の気持ちが高ぶっているせいか、数十名が並ぶ食事の席は終始にぎやかで笑い声が溢れていた。エリナは話題のひとつひとつに興味深げにうなずきながら、そこにいるメンバーの顔をさりげなく観察した。頭の中で、山本に見せられたファイルの写真と照らし合わせる。
まず、乾杯の音頭をとった男、大塚。いろいろと悪だくみをしていることを事前に聞いているせいか、どこからどうみてもチンピラにしか見えない。それも山本の言葉を借りれば「ただの素人」そのものだ。山本や岡田に比べて、いまひとつ迫力というものが足りない。悪ぶりたいだけで、その道に染まりきることもできない、中途半端な男なのだろう。一晩くらいなら相手をしてもかまわないが、女を自分のための道具としてしか考えていないところが気に入らない。
その隣で、居心地悪そうに大塚に肩を抱かれている女、みずき。ときおり、ちらちらと斎藤とエリナの顔を盗み見ている。斎藤のことが気になって仕方がないといった様子。今夜、うまく願いが叶えられたら、その後はみずきが斎藤を好きにすればよいとエリナは思っていた。最高のセックスが一度経験できたなら、それで斎藤の役割は終わりである。エリナの体を通り過ぎていった幾多の男たちと何の違いもない。
そして、トオルの隣でぼんやりとした表情のまま水ばかりを飲んでいる女がマミだった。ファイルに載せられていた写真とはずいぶん印象が違う。一言でいえば、短期間でありえないほどに老けていた。目の下にはくっきりとクマが浮き、頬はこけ、肌はかさかさと渇いてところどころにシワが目立った。これが山本の言う、薬の副作用なのだろうか。視線が定まらず、終始おちつきがない。
エリナはことさらに騒ぎを大きくするつもりはなかった。ただ、大塚に関しては少々「罰」を与えたいと思っていた。お互いに楽しもうというのでもなく、気持ちよさを追求しようというのでもない。ただ女を利用して己の鬱屈を晴らそうというだけの大塚の姿勢は、どうにも気に入らない。
ともかく、仲間たちの目が届く場所では3人とも妙な動きはできないはず。斎藤や、他の仲間たちと離れないように行動すれば何事も起こらないだろう。みずきや大塚たちがエリナの予想外の行動に出たときには、岡田や山本たちの手を借りよう。
最高のセックスをするためには、手間がかかるものなのね。頭の中でそうつぶやきながら、エリナはテーブルの下でこっそりと斎藤のひざに手を置いた。斎藤は驚いたようにエリナを見て、少しうつむきながらその手を強く握った。