嫉妬と欲望と-4
「ちょっと! もうこんなとこで彼女口説いてないで、さっさと食堂行きなさいよ!」
真後ろから大きな声がして、振り返るとまるで男の子のような短髪のよく似た女性がふたり、白い歯をいっぱいに見せて笑いながら立っていた。ふたりともゆったりとした黒のハーフパンツに、ひとりは緑のボーダーシャツ、もうひとりはピンクのボーダーシャツを着ている。斎藤の態度からすると、おそらく同じバイク仲間に違いない。
「く、口説いてなんかないだろ! 余計なこと言うなよ」
「あぁ、そうですか。後ろでちゃんと聞いてたんだから。景色のいいところって、あの崖の上の湖がみえるところのことでしょ? たしか前にここのオーナーが言ってたわよね、あそこで愛を誓いあった恋人同士は永遠に結ばれる、とかなんとか。斎藤クン、そんな乙女チックなとこあったんだぁ」
ふたりの女性はゲラゲラと笑い、斎藤は腕を振りあげて「黙れ黙れ!」と殴る真似をした。その仕草がおかしいと、笑い声がさらに大きくなる。
「うはは、だって彼女カワイイもんね! そりゃ、だれだって性悪みずきから乗り替えたくなるわ。馬鹿な上に性格悪いなんてさ、顔がちょっとくらい可愛くてもダメだよね。あの子、最近じゃ大塚とつきあってるらしいよ」
「そうそう、みんな噂してるよね。なんかさ、ついさっきもふたりで部屋にこもってエッチしてたんじゃないかって。アンアンいっちゃってる声が廊下まで聞こえてたんだって! よくあんなキモ男とやれちゃうよなぁ。あの子、あんまり自分でわかってないみたいだけど、女子の半分くらいから嫌われてるよ。ほんと、斎藤クン、あんなのと別れて正解、正解!」
「だよね。今日なんか練習中にさ、あのマミって子にめちゃめちゃエラそうに怒鳴ったりしてて。ほんと、何さまのつもりなんだか……やーん、でもいいなぁ、わたしも来年は彼氏と一緒の部屋で泊りたい!」
「バカ、相手もいないくせに何言ってんの?そんなに男が欲しかったらアンタも大塚に抱いてもらいなよ」
「もう、やめてよ! 自分だって彼氏いないくせに!」
ふたりが嬌声をあげながら食堂へ走って行ってしまった後、斎藤はエリナに向き直ってしどろもどろになりながら謝った。
「あ、あの、あいつら仲間うちの双子でさ、別に悪い奴らじゃないんだけど、なんでも思ったことポンポン言っちゃうっていうか……もし、気を悪くしたらごめんな……」
「気を悪くなんてしないわ、楽しそうな子たちね。さあ、みんな待ってるんじゃない? 早く食堂に行かなきゃ」
斎藤はエリナの手を握り直し、まだぶつぶつと何か言い訳をしながら食堂へと向かった。