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富子淫情
【歴史物 官能小説】

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富子淫情-5

「・・・既に供の方から子細は伺いました。

お忍びとはいえ、
将軍御台所様にお越しいただけたこと、

主人に成り代わりお礼申し上げる次第です」



自分の目の前に片膝をつき頭を下げたまま口上を述べる“別荘の家人"。



「苦しくない、顔をお上げなさい」


「はっ!!」



富子に促され、目の前の男が初めて顔を上げて富子の顔を見つめる。

しかし富子の美貌にうたれたせいか、
平静を装いつつも僅かに頬を赤らめ一瞬目を泳がせた。

無理もない。

白い肌、切れ長の黒い瞳、妖しいまでに赤い唇、頬に垂れ下がる艶やかな黒髪。
そして着物に炊き込められた香と、
彼女の肉体から発せられる甘酸っぱい汗の匂い。


まして子供をもうけたばかりで、肌はより白く柔らかくなっているのだ。

それらの要素が組合わさり、25歳という若さながら帝や上皇を魅了する美貌と官能を醸し出す。
しかも夫である将軍をも歯牙にかけぬ才覚をも身に付けている。

今まで富子に接したことのない男ならば、
否応なく“日野富子"というたぐいまれなる美女の虜になるはずだった。





一方で富子の方も、
目の前にいる男の風貌から目が離せなくなっていた。

美男子、というわけではない。そういう枠組みだけならば帝や夫・義政の方が数段上手だ。

見たところの年齢は30代前半といったところである。
背丈も彼女より少し高いようだ。



しかし目の前にある顔には、平凡そうな顔立ちに“涼やかさ"と“野性さ"が同居している。そういう印象を受ける。

また身に付けているよもぎ色の装束と黒烏帽子は華美ではないとはいえ、

彼の位や立ち位置から見れば決して粗末なものとはいえない。
これは彼が低い身分ではなく自らの才覚をもって立っていることを示している。

そして何より富子の気をひいたのは
その着物の装いの下に鍛えられ絞まっている筋肉が秘められていること。

彼の身体から発せられる泥臭さと汗の臭いは、
富子にとって嫌悪を催すものではなかった。

寧ろ男らしさを感じさせる意味では心地よいものでもあった。



今まで自分が接してきた貴賓の男達にはない魅力。
富子は知らず知らずのうちに、
胸の鼓動が早くなっていることを意識していた。





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