恋人との日常-1
「さて、今度はレイナがお話しする番よ。何があったの?」
「んー、先輩に、キスされた」
「それから?」
「それからって……、それだけよ」
「なーに? あの学園に一年以上通っていて、それだけ?」
「いやいやいや、そんな所だったなんて知らなかったんだってば。だいたい、アタシはまだ十三歳だよ。もうすぐ十四になるけど」
「もったいないわね」
シホは唇をペロリと舐めた。
「まあ、まだまだこれからよね。せっかくの楽園なんだから、楽しんでらっしゃいな」
「あの娘にも、いい人が出来たのかしらね……」
湯船に浸かりながら、シホは無意識に自分の乳房に手を当てた。乳首が硬くなり始めてきている。娘のことを思うと、シホの身体はいつもこうなってしまうのだ。ほんのりと甘い感情が沸き起こり、身体の芯から快楽を伴った吐息が漏れ出してくる。それは明らかに母親としての愛情とは別の感情だった。
いつ頃からだろうか、娘に対して単純でない想いを抱き始めたのは。
セクシャルな面において、自分が普通とは違う趣味を持っているのは十分に自覚している。それでも世間一般と同様に幸せな結婚をし、娘をもうけ、普通の家庭を営んでいる。さらに、サチコという恋人もいるので、シホは十分に満たされているといえた。
「でも、欲望に限りは無いのよね……」
それは、学生時代に得た結論だった。
シホが通っていた鈴城女子学園は、古い表現を借りれば、まさに乙女の花園だった。良家の娘が多く通い、幼稚舎から大学まで男に触れる事無く過ごす事も可能な温室であった。
その中でシホは自分の趣味を解放し、教師まで巻き込んだ自分だけのハーレムを創り上げたのだ。もちろん、そこに男の姿は無い。
シホが卒業した後は同好の士が集まる秘密の集まりになった様で、同窓生などから伝え聞くところによると、今でもその秘密の同好会は続いているようだ。
シホは湯船の中で、自分の乳首を軽く摘み上げた。
「んん……」
同時に反対側の手を無毛の秘所に挿し入れる。ヌルリとした感触が指先に感じられた。
娘のレイナが小学生までは一緒にお風呂に入っていたが、中学生に上がると同時に別々に入るようになった。さすがに家族旅行で温泉などに入るときは一緒だが、自宅で同じ湯船につかる事は止めていた。
娘にはその理由を「もうオトナだから」と言っていたが、本当の理由は別にある。二次性徴を向かえ、女らしい体つきになってきた娘の身体を見続けていると、歯止めが利かなくなるように思えたのだ。
レイナに手ほどきをするのは娘の方から求めるようになってからと、シホは心に決めていたが、どうやらそれも近いようだ。期待に身体が熱くなってくる。
頭を振ってシホは湯船から上がった。浴室の鏡に映る自分の半身を眺めやる。
シホは中学生の子持ちで三十六歳。だが、雫が滴る裸身は、とても子持ちとは思えないほど張りを保っていた。ジム通いを欠かさず続けていることもあるのだろうが、やはり恋をしているのが大きいと自分では思う。いつまでも綺麗でいようと思うことは女にとって大事な心構えだろうが、その理由として恋人に愛でてもらう為というのは、心理的にもアンチエイジングにプラスなのだろう。
先に風呂に入ったレイナは、既に二階の自分の部屋で寝ていた。
いろんな面で娘に甘いと言われているシホだが、メリハリをつけた躾はしているつもりだった。理由が無い限りは夜更かしを認めておらず、その為に自室にテレビを置くことも許していない。もっとも、親の薫陶よろしく、娘の方から自室用のテレビを求められたことも無い。
風呂上りの火照った身体を覚ますため、パジャマ姿のシホはキッチンの冷蔵庫からビールを取り出した。ついでに好物のチェダーチーズを用意してリビングのソファに座ると、テレビのスイッチを入れてビジネス関連のニュース番組を探す。
「……太るかしらね。明日はエクササイズのメニューを多めにしよっと」
シホは週に二回、予約制の高級ジムで身体を動かすことを習慣にしている。明日の午前はちょうどジムの予定だ。ジムにはプールやトレーニング機器、サウナなどがある。
明日の天気予報で締めとなったニュース番組がキャスターの一礼で終わり、CMが流れ始めたところでシホは時計を見た。時計の長針と短針が間もなく重なり、もうすぐ日付が変わる。テレビに目を戻すと、自動車メーカーのCMが都会を走る新車のアピールをしていた。
背の高いグラスに注いだビールをチビチビと飲みながら、シホは娘のことをまんじりとして考えていた。自分がレイナと同じ年のころはどうだったか……
「ダメね、比べられないわ。アタシは従姉のオモチャだったんだし」
娘の人生観が一変する話をしたのは、ほんの数時間前だ。今のシホにとって同性趣味は当たり前のことだが、娘がいずれ趣味嗜好のことで相談してくることはわかっていた。その為に、鈴城女子学園を薦めたのだ。シホがハーレムを創り上げるまでも無く、あの学園は教師を含めて同性趣味を持ったものが多数集っている。
辛くはなかったのかと問われて否定はしたが、実は一点だけほのかに辛く思っていることがあった。それは他でもない、レイナ自身のことだ。
自分に正直に生きればいいとは言ったものの、実際にはそれほど簡単ではない。社会に出て行けば、世間の常識にぶつかることもあるだろう。だが、わけもわからず不安なままでぶつかるよりは、理解のある人間が周囲に居たほうがいい。
悲惨な男性経験からトラウマになって同性趣味に走るものも居るが、自分や娘はそうではない。初めから、女性が好きなのだ。
幸い、娘は明るく前向きな性格で育ってくれた。多少の戸惑いを感じつつも、いい人と巡り会えたようなので、心配はしなくてもよさそうだった。迷ったときには、同好の先人として相談に乗ってあげればいい。
「親バカかしらね……」