獲物はすぐそこに-5
18時を過ぎたあたりで宿に戻った。雨に濡れ、泥に汚れた仲間たちがロビーで談笑している。普通のホテルやペンションなら問答無用で断られそうな風体だが、このあたりの宿はだいたい毎年バイク乗りたちを受け入れているせいか、少々汚れていようがずぶ濡れだろうが従業員もオーナーも嫌な顔一つしないのがありがたかった。
「まいったな、この雨……明日も降り続いたらレース中止になるんじゃないの?」
「うーん、あの崖のところだけだよね、問題は。ほら、あそこのぬかるみがさ、今日の昼間でもずるずる滑ってただろ? あれが明日までに乾かなかったらちょっと危ないだろうな」
「柵とか無いもんね。まあ、柵なんかあったって、誰かが突っ込んでいってすぐに壊しちゃうんだろうけど」
「あはは、そうそう、去年あそこから転がり落ちそうになってた奴がいたな。結局ナンバープレートだけが湖にポチャン!だったらしいよ。後で陸運まで行って、手続きが面倒だったとか言ってた」
「あったあった!しかもさ、レースの帰り道、ナンバー外れたまま公道走って捕まってやがんの! 馬鹿だー!」
みんながお腹を抱えて笑う様子を横目に、みずきも顔だけは楽しそうに装いながら、タオルで濡れた体を拭き、常に玄関に視線を走らせていた。まだエリナは来ていない。たしか夕方からこっちに来ると言っていたはず……
「みずき、もう戻ってたのか」
背中を軽く叩かれて振り向くと、すでに部屋着に着替え、缶ビールを片手に上機嫌な大塚がいた。赤く上気した顔を見ると吐き気さえ感じた。
「ああ、はい。……わたしも着替えて来なくちゃ」
みんなには大塚とのこと、知られたくない。大塚に背を向け、フロントで鍵をもらって2階の部屋に駆け込んだ。